この記事は2024年7月時点の内容です。
- アロマオイルや柔軟剤、ルームフレグランスなど、には気管支炎を誘発したり神経毒性を持っていたりする場合がある
- 犬はタバコや柑橘系、マニキュアの匂いに注意
- 猫は上記に加えラベンダーやアロマオイル全般が要注意な匂い
犬は人間の100万倍、猫は人間の10万倍の嗅覚を持っているといわれています。動物は優れた嗅覚で匂いからさまざまな情報を嗅ぎ分けますが、人間にとってはよい匂いでも動物にとってはストレスになってしまう可能性があるのです。
今回は、動物にとって危険な匂いについて紹介します。動物への知識を深め、ペットが安心して暮らせる環境を作りましょう。
◆執筆・監修:獣医師プロフィール
岩手大学で動物の病態診断学を学び、獣医師として7年の実績があり、動物園獣医師として活躍中。動物の病態に精通し、対応可能動物は多岐にわたる。
目次
人と動物で「好きな匂い」は違う
人間はさまざまな匂いから快楽を感じます。お肉が焼ける匂いやアロマオイルの匂い、森の中の匂いや花の匂いなど、嗅いでいて嬉しい気持ちや心地よい気持ちになる匂いは多いものです。
しかし、動物も同じように「いい匂いだなぁ」と感じているとは限りません。ここでは、人間にとってよい匂いと動物が好きな匂いの違いについて紹介します。
天然素材のアロマオイルは安全?
「天然素材」という言葉が使われている商品も多いアロマオイル。人間には”良い匂い”ですが、犬や猫、その他の動物には害になるものも多くあります。
もともとアロマオイルには化学物質が含まれていることがありますし、精油は自然の素材を凝縮させて香りを抽出しています。
そのため自然界にある濃度よりもはるかに濃縮して作られた一部の精油には、犬や猫の健康を阻害する成分が含まれており、気管支炎を誘発したり神経毒性を持っていたりする場合があります。
特に猫は、精油の成分のような脂溶性の化学物質を解毒しづらい動物です。そのため、有害物質がどんどん体内にたまってしまい、中毒を起こす可能性があります。基本的に猫にはアロマオイルやエッセンシャルオイルは使わず、犬の場合もペット専用の商品を使うようにしましょう。
柔軟剤を使ってペットのものを洗濯しても大丈夫?
洗濯の際に柔軟剤を使用している家庭も多いかと思いますが、ペットのアイテムを洗濯する際は柔軟剤を使うべきではありません。柔軟剤を使った洗濯物のよい匂いの正体は「香料」であり、香料とは化学的に合成・抽出された化学物質です。
例えば「フローラルの香りの柔軟剤」として販売されているものには、ユリの花の香料が用いられていることが多い傾向にあります。ユリの匂いは清潔感を感じさせ、人間にとってはよい匂いとして認識されています。しかし犬や猫の場合は、気管支炎などを誘発してしまう可能性があるのです。
他にも匂いが強すぎると偏頭痛を起こしてしまったり、匂いが気になって食欲がなくなってしまったりすることも。すぐに症状が現れなくても、匂いの成分が体に蓄積されて突然重篤な症状を引き起こすケースもあります。ペットと人間の洗い物は必ず分けることが大切です。可能であれば人間用の洗い物も、匂いが控え目の柔軟剤を使いましょう。
無意識にルームフレグランスを使っていませんか?
ペットと住んでいる人が注意したいのは、無意識のうちに使っているルームフレグランスアイテムです。部屋の匂いをケアするためのルームスプレーや、オイルを使わずに楽しめるお香なども、動物にとって害となる可能性があります。
アロマキャンドルや香水なども同様です。出かける際は香水を持って玄関の外に出て、室外で使うようにしましょう。また特に無意識で使いやすいのが、洗剤や拭き掃除用のスプレーです。
特に台所周りの掃除用品は、虫避け効果を兼ねてミントや柑橘系の匂いが含まれていることが多い傾向にあります。普段使っているものを今一度見直し、ペットに負担がない商品に買い替えることをおすすめします。香りつきトイレットペーパーやポプリなど、意外な香りアイテムにも要注意です。
犬にとって危険な匂いと成分
動物は自分で「嫌な匂い」には反応できますが、「危険な匂い」には反応できません。ここでは、犬にとって特に危険な匂いを紹介します。気づかぬ内に愛犬の健康を損なわぬように、生活用品と照らし合わせてみましょう。
- タバコの匂い
- 柑橘系の匂い
- マニキュア
犬も人間と同じように、タバコによって受動喫煙をしてしまう可能性があります。受動喫煙では、鼻腔がんや副鼻腔がん・肺がんなどの発生率が増加するといわれています。さらに肺炎や気管支炎など呼吸器疾患のリスクも高まってしまうでしょう。また、血液のがんである、リンパ腫が発生するリスクが高くなることもわかっています。
犬は柑橘系の果物を食べても、適量であれば大きな問題はないといわれています。しかし柑橘類やレモングラスなどに含まれる「シトラール」という成分は、犬など動物の神経に毒性がある可能性があります。また、動物の皮膚に直接触れると、接触性皮膚炎などが発生することがわかっています。柑橘系の洗剤や香水などを使っている人は控えるべきでしょう。
マニキュアの匂いには、発がん性の高い有機溶剤が含まれています。同様にDIYや工事などに用いられる塗料にも、マニキュアのようなシンナー臭がありますよね。独特な強い匂いは体調不良を招き、直接触れると皮膚炎を誘発することも。使う際は必ず窓を開けて換気することを心がけましょう。
猫にとって危険な匂いと成分
猫は犬よりも危険な匂いが多い傾向にあります。日用品やちょっとした香り系アイテムだけではなく、何気なく食べている食材にも毒性のある匂いが含まれている可能性が。以下に、特に猫にとって危険な匂いを紹介します。
- ラベンダーの匂い
- アロマオイル全般
- 柑橘類の匂い
人間にとってはリラックス効果が見込まれるラベンダーですが、猫が匂いを嗅ぐと肝臓や腎臓の機能に悪影響があるといわれています。ラベンダーは人気のある香りであるため、芳香剤や消臭剤・入浴剤・ポプリなど生活用品に用いられやすく要注意です。ハーブティーや紅茶の取り扱いにも注意しましょう。
犬の場合は嗅いでも大きな問題がないアロマオイルもありますが、猫にとってはアロマオイル全般が禁忌になります。なぜなら、犬は脂溶性物質を肝臓でのグルクロン酸抱合という代謝で水溶性に変換して排泄できますが、猫にはこのグルクロン酸抱合がなく、脂溶性であるアロマオイルの成分を排出しづらいのです。
結果、皮膚障害や神経障害・気管支炎・アレルギー・頭痛などさまざまな症状を引き起こしてしまうのです。なお、フェレットも猫と同様、グルクロン酸抱合のない動物ですので注意が必要です。
柑橘類の甘酸っぱい匂いの中には、リモネンやソラレンという物質が含まれています。猫はこれらの匂い成分を分解できず、中毒を起こす可能性があります。皮膚炎を誘発したり、下痢や嘔吐の症状が現れることも。ソラレンはアセロラやパイナップル、セロリなどにも含まれているといわれることがあり、注意が必要です。
匂いへの慣れには要注意
毎日嗅いでいる匂いには鼻が慣れるため、ペットの症状の原因がわからないことがあります。ここでは、人間にもペットにも起こり得る匂いアレルギーについて紹介します。アレルギーの発症自体を完全に防ぐことは困難ですが、症状を和らげるための工夫は可能です。すぐに対処をするため、ペットの様子の変化に気づけるように心がけましょう。
人もペットも可能性のある匂いアレルギー
匂いアレルギーとは、実際のアレルギーとは異なりますが、香料に含まれている化学成分が体と反応し、さまざまなアレルギーに似た症状が出てしまうことです。以下は、匂いによって出る症状の一例です。
- 頭痛
- めまい
- 吐き気
- 下痢
- 不整脈
- 気管支炎
- 蕁麻疹
- 痒み
- 疲労感
- 喉の渇き
匂いアレルギーの症状が出るのは刺激を受けてから約1時間程度といわれていますが、個人差があります。また鼻水の症状から現れることが多いため、風邪や花粉症と勘違いされているケースもあるようです。風邪が長引いているなあと思ったら、匂いアレルギーを疑ってみてもいいかもしれません。
そして匂いアレルギーは、人間だけではなく動物にも発症します。禁忌とされている匂いだけではなく、生活の中でよく嗅ぐような人にとってごく普通な匂いでもアレルギー反応が出る場合も。特に化粧品や殺虫剤・香水などは多くの化学物質が含まれるため、原因として挙げられることが多いといわれています。
ペットが匂いアレルギーになったら?
もしもペットが匂いアレルギーになってしまったら、基本的には窓を開けたり換気扇を回したりして換気し、室内の空気が綺麗な状態で過ごしましょう。どの匂いが原因かわからないときは、香料を用いている商品を交換してください。
コスメや洗剤なども、無添加のものに変えることをおすすめします。また外からの匂いにアレルギー反応を起こしている可能性もあります。近所で工事やリフォームなどを行っている場合は窓を閉め、匂いによるストレスから距離を設けてあげましょう。
飼主だけではアレルギーの原因を掴むことは困難です。獣医師に相談しながら少しずつ原因を探り、対策を模索しましょう。アレルギーによる食欲不振や運動不足が現れている場合は、匂いや味が好みのフードに変えたり、家の中でできる運動を提案してあげたりすることが大切です。
正しい匂いの知識を身につけ、動物にとって安全な環境を作ろう
今回は、動物にとって危険な匂いや匂いアレルギーの対処法などを紹介しました。人間よりも遙かに高い嗅覚を持っている動物たちは、私たちでは知り得ない情報の中で生きています。同じ匂いを嗅いでいるつもりでも、まったく違った印象を受けていることでしょう。
人間は、生臭かったり酸っぱかったりなどの刺激的な匂い以外では、嗅覚においてストレスを感じる機会は多くありません。だからこそ動物にとって危険な匂いを飼主自ら学び、意識的にケアしてあげるよう心がけましょう。飼主の正しい知識や行動が、愛犬や愛猫の健康を守るのです。
匂い以外にも、ワンちゃんにとって危険なものは他にもあります。
以下の記事では、春のお散歩で注意したい花や植物を紹介しています。参考にしてみてください。
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