- アニマルパスウェイは対象動物の習性や体格に合わせた設計が重要
- ロードキル防止と生物多様性維持の両立を目的とする
- 定期的なモニタリングによる効果検証と設計改善
道路の上を、小さな橋が渡してあるのを見たことはありませんか?木の上で生活する小さな動物たちが、安全に道路を渡るために設置された小さな橋。それがアニマルパスウェイです。
小さな動物たちの命を守るために設置されたアニマルパスウェイが、どのように設置されているのか、どのように保全されているのか。
人と動物の共存を考えるうえで、その必要性が注目されているアニマルパスウェイについて、解説します。
目次
アニマルパスウェイとは
アニマルパスウェイは、道路や鉄道線路などで分断された森を結ぶ小動物のために設置される樹上野生動物の通り道、いわば動物のための歩道橋です。
例えば、樹上生活するリスのための空中橋など小動物が安全に移動できる(道路を渡れる)よう設計されています。
アニマルパスウェイは、生物多様性を保護する重要な役割を果たすだけでなく、野生動物と車両の衝突事故を減らし、ドライバーの安全にも貢献します。
人間の開発と自然環境の共存を目指す、現代の環境保護の象徴的な取り組みの1つと言えるでしょう。
アニマルパスウェイの目的と重要性
アニマルパスウェイの主な目的は、野生動物の安全な移動を確保し「ロードキル」という車両による動物の轢死(れきし)を防ぐことです。
道路や鉄道は野生動物の生息地を分断し、餌場や繁殖地への移動を困難にします。その結果、多くの動物が道路横断中に車にはねられ、命を落としています。
アニマルパスウェイはこの問題を解決し、生態系のつながりを維持するだけではなく、動物との衝突事故によるドライバーの安全リスクも軽減します。
このように、長期的な生物多様性の保全にも貢献する、自然と人間社会の共生を実現する重要なインフラと言えるでしょう。
アニマルパスウェイの種類と特徴
アニマルパスウェイには、大きく「オーバーブリッジ」と「アンダーパス」の2種類があります。空中に設置される「オーバーブリッジ」は、リスやサルなどの樹上性動物に適しています。
一方「アンダーパス」は、たぬきや鹿などに対してはボックスカルバート(主にコンクリートなどで造られた箱型の構造物で、地中に埋設されている事が多い)などで作られるアンダーパスの利用も確認されています。
このように、対象となる動物の習性や体格に合わせて設計され、自然な移動を促します。
アニマルパスウェイってどこにあるの?
アニマルパスウェイは、主に野生動物の生息地を分断する道路や鉄道沿いに設置されています。特に、国立公園や自然保護区の周辺、森林地帯を横断する高速道路、野生動物の移動経路として知られる地域に多く見られます。
日本では、北海道の知床や大雪山周辺、本州の中部山岳地帯などに設置例があります。
アニマルパスウェイの設置場所はこちらから確認できます。
アニマルパスウェイの効果と課題
ロードキルの減少、生態系の連続性維持、生物多様性の保全などさまざまなメリットをもつアニマルパスウェイ。しかし、その設置には、公的な予算で動物のための施設を建設するのは簡単なことではないという問題点も。
それ以外にも、設置による効果の定量的評価の難しさなどの課題があります。アニマルパスウェイの設計のポイントから、効果を可視化するためのモニタリングの重要性について紹介します。
効果的なアニマルパスウェイの設計ポイント
効果的なアニマルパスウェイの設計には、対象動物の行動習性を深く理解することが不可欠です。
まず、パスウェイの幅や傾斜を動物が快適に移動できるよう調整します。次に、自然な地表や植生を再現し、動物が安心して利用できる環境を整えます。そして入り口付近には、動物を誘導するフェンスや植栽を配置し、利用を促進します。
さらに、季節や天候の変化に耐える耐久性のある材料を選択することで、長期的な機能維持を図ることが可能になります。そのために、使用しているうちに腐って道路に落ちないような、丈夫な材料で構成したものにする必要があります。
このようにアニマルパスウェイを設置する際には、動物にちゃんと使ってもらえるようにするだけではなく、定期的なメンテナンスにより人間の事故につながらない配慮も大切なのです。
定期的なモニタリングの重要性
アニマルパスウェイの効果を最大化するには、カメラトラップやセンサーを用いて、利用する動物の種類や頻度を記録するなど定期的なモニタリングが欠かせません。
これにより、設計の改善点や新たなニーズを把握できます。また、季節変動や年次推移を分析することで、長期的な生態系への影響を評価できます。モニタリングデータは、地域の生態系管理や都市計画にも活用可能です。
さらに、一般公開することで、環境保護への理解と支援を広げる効果も期待できます。継続的な観察と分析が、パスウェイの進化と生態系保全の成功につながるのです。
世界に広がるエコロジカル・ネットワーク
エコロジカル・ネットワークとは、野生生物が生息・生育する森林・農地・都市内緑地・水辺・河川などのさまざまな空間がつながる生態系のネットワークのことを指します。
アニマルパスウェイの概念は、より大規模なエコロジカル・ネットワークの一部として世界中に広がっています。
例えば、イギリス南部の特定自然保護区ワイト島に、鉄道の上をまたぐ英国版アニマルパスウエイを設置しました。このアニマルパスウェイの成功例を基に、その後もイギリス国内に類似の3つのパスウェイを設置したといいます。
また、フランスでは絶滅危惧種のカエル類など小動物のためのアンダーパスに、当時約1億円程度の費用を掛けたといいます。
これらの取り組み以外にも、ヨーロッパではEUの規則により、さまざまなエコロジカル・ネットワークの構築が行われ、自然保護政策に多くの費用を費やしています。
参考:海外のアニマルパスウェイ
アニマルパスウェイの重要性と今後の展望
アニマルパスウェイは、都市化と自然保護の両立を象徴する重要なインフラです。
今後、気候変動に伴う生息地の変化や都市の拡大により、その重要性はさらに高まると予想されます。技術の進歩により、より効果的で経済的なパスウェイの設計が可能になるでしょう。
また市民科学の発展により、モニタリングや維持管理への一般参加が増えることが期待されます。
さらに、都市計画や道路設計の段階から生態系への配慮を組み込む「生態系に配慮したインフラ」の概念が主流化し、アニマルパスウェイがより一般的になるといいですね。