この記事は2024年9月時点の内容です。

まとめ
  • 介助犬はおよそ10歳で引退する
  • 引退した介助犬の9割は使用者の家に引き取られる
  • 犬には人の心を明るくしてくれる力がある 

手や足に障がいをもつ人をサポートする「介助犬」。そんな介助犬として活躍した犬も、ある程度の年齢になると介助犬を引退します。

ここでは引退した介助犬のその後について、日本介助犬協会の渡邊さんにお話を聞きました。

介助犬を引退した後、長年連れ添ってきた使用者の家で残りの生涯を過ごすことが多いそうです。

◆取材・監修:日本介助犬協会

日本介助犬協会 渡邊 真子(わたなべ まこ)さん

大学卒業後、人と犬に関わる仕事がしたいと、人のことを学ぶためにデイサービスに就職。その後、日本介助犬協会の研修生を経て、広報職員として就職。現在おおよそ30人の協会職員とともに、介助犬の普及活動に力を入れている。まだまだ介助犬に対して誤解があったり、知らない人も多いので、もっともっと介助犬について知ってほしいと語る。

10歳をメドに引退した介助犬のその後とは

介助犬はおおよそ2〜3歳から介助犬の活動を始め、10歳前後で引退するのだそうです。2歳から10歳までのおよそ7〜8年間、介助犬として活動します。

およそ10歳で介助犬としては引退しますが、犬としての寿命は平均すると13〜14歳くらい。10歳で引退した後、介助犬たちはどのように生活しているのでしょうか。渡邊さんに聞きました。

渡邊さん
渡邊さん

引退犬を引き取るボランティアさんもいるのですが、実際には引退した介助犬のおよそ9割は、そのまま使用者の家に引き取られます。

現役の介助犬と、引退した介助犬が同じ家で生活していることも珍しくありません。

現役犬と引退犬の2頭が一緒に生活しているなんて、なんか楽しそうでいいですね!

Tierコラム編集部
Tierコラム編集部
渡邊さん
渡邊さん

何か落としたりすると引退した介助犬が拾ってくれる、なんてこともあるみたいです。

犬自身は楽しくてやってきたことでもあるので、今日から引退だからもうやらない!なんてことはないんでしょうね(笑)

実際に介助犬と一緒に暮らすユーザーの声

介助犬と一緒に暮らす障がい者から寄せられた声について渡邊さんに話してもらいました。

渡邊さん
渡邊さん

「障害を負ってから外出するのが怖くなっていたけれど、この子(介助犬)と一緒だから安心して出かけられるようになった」というお話をいただきました。

ほかにも「障害を負ってからできないことが増えていくばかりだと思っていたのに、介助犬と一緒に生活するようになって、できることが増えていくのがうれしい」というお話も。

「できることが増えていく」というのはとてもいい表現ですね。使用者の実感がとてもこもっている言葉だと思います。

Tierコラム編集部
Tierコラム編集部
渡邊さん
渡邊さん

そうですね。

「今まで何かを頼むのも、家族が相手でも申し訳ないと思う事が多かったけれど、介助犬は遊びの延長線上で楽しそうにやってくれるのでこちらも頼みやすくて笑顔が増える」と言ってもらったこともあります。

そんなふうに言ってもらえると、本当にこの仕事をやっていて良かったなと感じます。

キャリアチェンジ犬のその後は…

犬たちをトレーニングしたり評価をしていく中で、介助犬以外の活動に適性を見せる犬がいます。キャリアチェンジした犬たちのその後は、どんな活動をしているでしょうか。その一部を、渡邊さんに紹介してもらいました。

Dog Intervention®ってなんのこと?

 Interventionには『介入』という意味があります。Dog Intervention(以下、DI)は直訳すると『犬による介入』つまり病院などで犬を介入させる治療を行ったり、リハビリのサポートをすることをいいます。

DI®活動とは

・特定の患者さんに対して医師や看護師、理学療法士、作業療法士等からの依頼のもと治療に介入するAAT(動物介在療法)

・DI犬®を連れた病院等への訪問をするAAA(動物介在活動)

・虐待や性被害を受けた子どもに寄り添う付添犬の派遣

DI犬®の活動には上記のようなものがあるのだそうです。その内容を渡邊さんが詳しく解説してくれました。

渡邊さん
渡邊さん

犬には人の気持ちを明るくしてくれたり、笑顔を引き出してくれる力があるんです。

DI犬®と一緒に病院に訪問して、医師の指示のもと動物介在療法をお手伝いしたり、つらい経験をした子どもたちが自分の経験を話すためのお手伝いをしたりします。

どのような犬がDI犬®になるのでしょうか?

Tierコラム編集部
Tierコラム編集部
渡邊さん
渡邊さん

介助犬のトレーニング中にDI犬®に適性があると判断される場合もありますし、まれですが早期に介助犬をリタイアした犬がDI犬®になることもあります。

介助犬になる犬は人が好きで穏やかな性格の犬です。でも人は好きでも電車に乗るのは苦手など、得意不得意はさまざま。その性格によって適性は変わってくるのだそうです。

その性格や適性を見極め、活躍の場を見つけるのもトレーナーの仕事なのだと渡邊さんは話します。

子どもの気持ちに寄り添う付添犬(つきそいけん)

付添犬とは、ハンドラーと一緒に子どもの支援をする犬のこと。虐待や性被害を受けた子どもに寄り添い、自分の身に起こったことを医療従事者や司法関係者などの大人に話す手助けをします。

渡邊さん
渡邊さん

虐待・性被害等を受けた子どものためのワンストップセンター「NPO法人子ども支援センターつなっぐ」から日本介助犬協会に、事業協力の依頼があったことから実現した取り組みです。

時には裁判で証言する子どもをサポートすることもあるとか。傷ついた子どもの気持ちに寄り添って、安心して子どもが話せるような環境を作ります

人の心の健康回復を担う動物介在療法(AAT)

動物介在療法(Animal-Assisted Therapy)とは、治療の一環として医療従事者からの処方の元、適性のある動物を医療資格者であるハンドラーと共に介入させる補助医療のことです。介入する動物は犬が最も多く、欧米を中心に馬による理学療法も行われています。

動物を同伴するハンドラーは医療従事者以外に、研修の後実施団体から認定を受けたボランティアが行うこともあります。

渡邊さん
渡邊さん

医療従事者に向けたハンドラー研修を行い、当協会が認定をしたり、聖マリアンナ医科大学病院には勤務犬としてDI犬®の貸与も行っています。

現在はハクという3代目の勤務犬が活躍してくれています。

病院にDI犬®が常駐しているということでしょうか?

Tierコラム編集部
Tierコラム編集部
渡邊さん
渡邊さん

そうです。たとえば、手術室に向かう子どもに付き添い、麻酔で眠るまでそばにいたり、その後の精神的サポートやリハビリへの介入などもあります。

入院中の患者さんにおけるDI犬®の役割は、大きなものがあると思います。

なかなか大人に心を開けない子どもでも、犬と一緒にいることで心を開けることもあるのだそうです。

いつも明るく人に寄り添ってくれるこの素晴らしい犬という動物から、教えられることは多いのだと、渡邊さんは話してくれました。

人の生活の質の向上を担う動物介在活動(AAA)

動物介在活動(Animal Assisted Activity)とは、動物とのふれあいを通して高齢者・子どもや病気を患う人の生活の質を上げるために行われる活動です。

渡邊さん
渡邊さん

病院やクリニック・リハビリテーションセンター・児童相談所などから依頼を受けて、DI犬®をともなって当会職員が訪問します。

私たちの仕事は、DI犬®を医療従事者やリハビリテーション専門職、司法の専門機関など犬を介して人を笑顔にしたいと考える専門職に適性のある犬(DI犬®)をつないでいくことかもしれません。

介助犬になる犬は、みんな人が大好き!

介助犬になる犬は、穏やかな性格と人が大好きという特徴があるのだそうです。その特徴を活かした、介助犬以外の活動の場も広がり始めていることを渡邊さんは教えてくれました。

介助犬として長く活動した家で引退後も愛されて楽しく余生を過ごす犬が多いこと、DI犬®としてさまざまな人に愛されて過ごす犬がいること、それは犬たちに常に敬意を持って接する協会職員の働きによって成されてきたものであること。

欧米では盲導犬・聴導犬・介助犬以外にも、PTSDのサポートや精神障害に対するサポートをする犬など、犬により多くの活動が認められているそうです。

未来の日本ではきっと、今よりももっと多くの活動をする犬たちに出会えるようになっていることでしょう。

 

以下の記事では介助犬ボランティアの仕事内容や、私たちが手伝えることを紹介しています。 【あわせて読む】

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