この記事は2024年10月時点の内容です。
- 単為生殖とは未受精卵(無精卵)から子どもが誕生すること
- 単為生殖は特殊な有性生殖であり、無性生殖とは異なる
- 無性生殖で産まれた子どもはクローン。単為生殖の場合はクローンでない場合も
- 昆虫・サメ・爬虫類・鳥類での報告はあるが、哺乳類は単為生殖ができない
先日「メスの鳩を一羽しか飼っていないのにヒナが孵った」というニュースがSNSに投稿され、話題になりました。この時「単為生殖」という言葉を知った人もいるのではないでしょうか。
単為生殖とは、メスが単独で子どもを作る生殖様式です。メスだけで子どもがうまれると聞くと奇跡のようですが、単為生殖は一部の昆虫ではごく普通に行われています。今回は単為生殖についてできるだけ簡単にわかりやすく解説します。
◆執筆・監修:獣医師プロフィール
目次
単為生殖とは。産まれた子どもはクローン?
単為生殖とは、オスと交尾をしていない状態のメスが産んだ卵=未受精卵(無精卵)から子どもが誕生することです。
単為生殖を理解するために有性生殖と無性生殖を知ろう
単為生殖について理解をするために、生き物の生殖方法自体について解説します。生き物の生殖方法には、大きく分けて「有性生殖」と「無性生殖」があります。
有性生殖
私たち人間に代表されるようなオスとメス、2種の個体が関わる生殖方法です。
有性生殖のメリットは、別々の遺伝子を遺伝子を持ち寄った2個体から新しい個体が誕生することで、次世代の遺伝子がバラエティ豊かになることです。
しかし、1個体では生殖できないため、環境によっては子孫を残せなくなる可能性もあります。また、生殖に費やすエネルギーも大きくなり、個体数を増やすために多くの時間が必要になります。
無性生殖
無性生殖とは、1個体が単独で新しい個体を形成する生殖方法です。分裂・出芽・断片化という3種類の増え方があります。
分裂は、親がほぼ同じ大きさの2個体以上に分かれる増え方です。ゾウリムシやアメーバといった微生物は、この生殖方法を取ることが多いです。
出芽は親個体の一部がふくらんでそれが新個体になる増え方です。ホヤ類などは出芽によって個体数を増やします。
断片化は、親個体の体が複数に切断され、その断片のいくつか、または全てが別個体になる増え方です。海に住むスポンジのようなカイメン類などが断片化を行います。
無性生殖は、自分という1個体から別個体を生み出せます。孤立した環境で、短期間に多数の個体を産むことも可能です。
しかし、無性生殖で誕生した子どもの遺伝子は親と同一です。
いくら個体数が増えても、同じ遺伝子の個体ばかりでは環境の変化などによって容易に絶滅してしまうというデメリットがあります。
単為生殖
単為生殖にはオスが関わりません。そのため、単為生殖と無性生殖は混同されがちです。しかし、上でお伝えしたように、無性生殖は親個体そのものの体を利用した増え方をします。
一方、単為生殖はメスが産んだ卵から発生する生殖方法です。そのため、単為生殖は無性生殖ではなく特殊な有性生殖であるという考え方が主流です。
無性生殖ではクローンが産まれる。単為生殖の場合はクローンではない場合もある。
単為生殖の話になると「子どもはクローンなのか?」という疑問があがります。そもそもクローンとはなんでしょう。
クローンは、別の個体と遺伝的に全く同じ個体のことです。上で解説した無性生殖の場合、子どもの遺伝子は親と全く同一でクローンだと言えます。
しかし、単為生殖で産まれた子どもはクローンの場合とクローンではない場合があります。
単為生殖では、別個体の遺伝子と自分の遺伝子を組み替えることはありませんが、自分の遺伝子同士を組み替えることがあります。
産まれた子どもの遺伝子は親と必ずしも全く同じではないため、クローンではないこともあるのです。
単為生殖する生き物の例
冒頭では、ハトの単為生殖がSNSで話題になったことを紹介しました。ここでは単為生殖する生き物を紹介します。
昆虫ではそれほど珍しくない単為生殖
未受精卵から子どもが産まれると聞くととても特別なことのようですが、ミツバチやアリなどの昆虫ではそれほど珍しいことではありません。
ミツバチやアリのメスはオスとの交尾による有性生殖を行うことも可能で、有性生殖で産まれた子どもはすべてメスです。
一方、オスの精子を利用しない未受精卵から子どもが孵化する単為生殖も普通に行われ、未受精卵から産まれた子どもはすべてオスです。
ミツバチの他、ナナフシの仲間やアブラムシなどの昆虫でも単為生殖が行われることが知られています。
昆虫以外で単為生殖する生き物の例
昆虫ほど当たり前ではありませんが、サメや爬虫類・鳥類などでも単為生殖が報告されています。
1.サメ
サメはメスしかいない環境だと、ごく稀ではあるものの、単為生殖を行うことがあります。海外ではシュモクザメやトラフザメといったサメで単為生殖の報告があります。
日本国内でも、水族館で飼育されているトラフザメやドチザメといった種類のサメによる単為生殖が報告されています。
特に、トラフザメの例では、同じ水槽内にオスがいたにも関わらずメスのみで単為生殖が行われたという点が驚きを持って伝えられました。
2.爬虫類
トカゲ、ヘビ、ワニなどでの報告がありますが、なかでもハシリトカゲ類の単為生殖は極めて特殊で古くから研究されています。
このトカゲにはオスが存在しません。全ての個体がメスなのです。しかし、排卵のためには他個体からの背中への刺激が必要で、繁殖期にはメス同士で他個体の背に乗って交配行動を取らなければなりません。
単為生殖できるのにも関わらず他個体の介入が必要というのはなんとも不思議な話です。
また、トカゲの仲間の単為生殖としては、2020年にアメリカの動物園で飼育されているコモドドラゴンが単為生殖した際にメディアで大きく取り上げられました。
3.鳥類
鳥類では、七面鳥・鶏・フィンチ・ハトなどの単為生殖が報告されています。いずれもオスのいない環境でした。
鳥類の単為生殖は、ほとんどが発生段階で止まってしまい、孵化することはごく稀だと言われています。
2021年に発表されたカリフォルニアコンドルにおける単為生殖は、雛が孵った例のひとつですが、オスと一緒に飼育されていたメス2羽によるものである点や、2羽の母鳥が過去にはオスとの繁殖の経験もあることが極めて異例でした。
人間は単為生殖できる?
単為生殖の話題が出ると必ずと言って議論されるのが、私たち人間も単為生殖が可能なのか?という点です。
現状では、哺乳類の単為生殖の報告はありません。人間だけでなく、哺乳類全体として単為生殖は不可能だという考えが主流です。
生殖方法はそれぞれの種の生存戦略
今回は単為生殖に着目して生き物の生殖について解説しました。哺乳類では当たり前の有性生殖ですが、他の種の動物では必ずしも子孫を残すために他個体が必要ではないという点が驚きですね。
生き物の中には、環境によって性転換したり、雌雄同体のものもいます。種の生き残りをかけて、色々な戦略でできるだけ有利に個体を増やそうと進化してきたのです。
興味を持った人は、他の生き物の生殖方法についてもぜひ調べてみてください。