- オオアリクイは絶滅危惧種に選定されている
- 日本の動物園では6園でしか飼育されていない動物
- オオアリクイは1日に14時間も眠っている
- オオアリクイのカップルは一期一会!?
オオアリクイを知っていますか?細長い顔と、ふさふさの尻尾を持った動物で、日本国内では6園でしか飼育されていません。
今回はその6園のうちの1つ、東京の江戸川区自然動物園のオオアリクイの飼育担当スタッフである前田さんに、オオアリクイについて解説してもらいます。
ちなみに、江戸川区自然動物園は日本国内で唯一、無料でオオアリクイを観ることができる動物園です。
◆取材・監修:江戸川区自然動物園 オオアリクイ担当 飼育スタッフ
オオアリクイの飼育を担当して7年、2回の出産にも立ち会ったというベテランスタッフ。2024年9月にも赤ちゃんの誕生に立ち会い、1回目よりも余裕を持って落ち着いて対応できたと話す。子育て中のアイチを暖かく見守っている。オオアリクイのふさふさのしっぽがかわいいのでぜひ見てほしいと語る。
目次
長い舌と長い顔を持つ『オオアリクイ』とは
オオアリクイはおよそ体重50kg、大きなものだと頭の先から尻尾の先までの体長が2mを超える個体もいる、大型の動物です。その特徴的な風貌は、一度見ると忘れられない姿です。
そんなオオアリクイは現在、個体数が減っており、絶滅危惧種に選定されている動物です。ここではオオアリクイの生態について解説してもらいます。
オオアリクイが絶滅危惧種になった理由
オオアリクイが絶滅危惧種になってしまった背景には、どのような理由があるのでしょうか。
オオアリクイは南米の森林や湿地にいます。オオアリクイの住む森林が伐採され、環境破壊が進んだ結果、オオアリクイは住むところを失いその数を減らしています。
1分間に150回も!60cmの舌を高速出し入れ可能
オオアリクイの舌は60cmもの長さがあるのだそうです。その長い舌を高速で出し入れできるというのは本当なのでしょうか?
本当です。
オオアリクイの口は小さく、歯もありません。そのため食事はアリのような小さな生き物や、飼育下ではペースト状のものを食べる事になります。
ただ、ペーストだと舌を使わずに食事ができるため、飼育下ではあまり舌は使わないかもしれません。
アリクイの食事は13:30〜14:00に行われるそうです。オオアリクイの食事風景を見るならこの時間帯が狙い目です。
オオアリクイって何を食べているの?
オオアリクイはその名の通り、野生下ではアリを食べる動物です。しかし、どのくらいのアリを食べるのか、動物園でもアリを食べているのかについては疑問に思う人も多いはず。
ここでは野生のオオアリクイと、飼育下でのオオアリクイが、それぞれどんなものをどのくらい食べているのか、前田さんにお話を聞きました。
野生のオオアリクイは1日に3万匹ものアリを食べる
野生のオオアリクイがおよそ50kgの体重を維持するためには、どのくらいの量のアリが必要なのでしょうか?
野生下でのオオアリクイは、1日3万匹ものアリを食べています。
オオアリクイは嗅覚がとても優れていて、盛り上がったアリ塚タワーも、土の中にあるアリの巣も匂いで見つけることができるんです。
園では特製ペーストおよそ1.5kgを1日3回に分けて食べている
オオアリクイは動物園では何を食べているのでしょうか?毎日アリを用意するのは大変だと思うのですが……。
現在、江戸川区自然動物園にいるオスのアニモとメスのアイチについて聞きました。
園では『代用食』を用意しています。
代用食は馬肉・イナゴ・粉ミルク・ゆで卵・ドッグフードをミキサーにかけてペースト・スープにしたものです。
これを1日3回に分けて、アニモには1.5kg与えます。
アイチには虫を食べる動物用のペレットを朝150g、昼夜に代用食を400gずつ3回に分けて与えています。
アニモとアイチで与えるエサが違うんですか?
個体の便の状態や体調に合わせて、エサを調整しています。
1頭1頭の体質や体調に合わせた、きめ細やかな対応をしているのですね。
オオアリクイの体はとても省エネにできている
オオアリクイは、大きな個体で体長2m・体重も50kgと、アリクイのなかで最大の大きさを誇る動物です。その大きな体を維持するために、とても省エネにできているのだとか。
普段のオオアリクイの省エネな体と暮らしぶりについて聞きました。
オオアリクイは体温が33℃と低く、1日14時間眠ることで少ないエネルギーで生活しています。
生態は、昼行性と夜行性の両方の説があります。園での生活は昼行性で、開園時間に合わせて起きてくれる感じです。
子育てをしているアイチは、午前中は眠っていることが多いですね。
オオアリクイの子育ての秘密
江戸川区自然動物園では2022年と2024年の2回、オオアリクイの出産が行われています。
オオアリクイの出産や子育てについて、2回の出産に立ち会ってきた前田さんに当時の様子と合わせてお話を聞きました。
知られざるオオアリクイの妊娠・出産を解説!
オオアリクイは季節による発情期の時期が決まっていません。そのため、発情期の兆候を見逃さないことは繁殖にとっても大きな影響があるのだとか。
オオアリクイ飼育のベテラン、前田さんだからわかるオオアリクイの繁殖について解説してもらいました。
当園の個体の場合、メスには発情期の変化がほとんどないため、オスの様子を観察して発情期を判断します。
オスが落ち着きがない様子になってくると「発情期かな?」と。
メスの部屋の匂いを嗅ぎに行ったり、メスの様子を気にするそぶりが続いたら、その兆候を見逃さずにメスと一緒の時間を作るタイミングが重要です。
妊娠期間はどのくらいなのでしょうか?
およそ6ヶ月弱の妊娠期間を経て、1回の出産で1頭の赤ちゃんを生みます。
お母さんが4本足で立っているところから、するんと出てくるので、安産ですよ。
オオアリクイの育児はメスだけの役目
オオアリクイは普段は群れず、1頭ずつで生活しているそうです。そんなオオアリクイの子育てはどのように行われるのでしょうか?
子育てはメスだけが行います。オスは子育てには参加しません。野生下だと繁殖期に1度会っただけで、2度と会わないことがほとんどです。
母親は生まれた赤ちゃんを背中におんぶして半年ほど一緒に過ごします。10ヶ月ほどで子どもが独り立ちするまで母親が面倒をみます。
1度会ったきり2度と会わないって……とてもさっぱりした関係なんですね(笑)。
1.6kgで生まれたオオアリクイの赤ちゃん
江戸川区自然動物園では、2024年9月にオオアリクイの赤ちゃんが生まれています。赤ちゃんが生まれた時はどんな様子だったのでしょうか。
生まれた時の体重は1.6kgでしたが、3週間で2.4kgまで増えました。
アイチは2度目の出産でもあり、安定した丁寧な子育てをしています。
赤ちゃんをおんぶしている姿が見られるのは生後6ヶ月くらいまでで、とても短いです。おんぶの姿はとても貴重なので、その間にぜひ見にきていただきたいですね。
1.6kgというと、成体で50kg近くになると考えるとずいぶん小さい気がしますが……。
オオアリクイの赤ちゃんは1.4〜1.8kgくらいで生まれてきます。小さく生まれると言われると、たしかにそうですね。
50kgというと、成人女性の体重くらいの重さがあります。人の場合は3kg前後で生まれてくることを考えると、およそ1.5kgという半分くらいの大きさで生まれてくるんですね。
知っているようで知らない?オオアリクイの生態を紹介
オオアリクイという動物の生態についてどこまで知っていますか?なんとなく姿は想像つくけど、どんな動物なのかはよく知らないという人が多いのではないでしょうか。
ここではオオアリクイのちょっと意外な生態について、前田さんに話してもらいました。
頭は小さくても実は頭脳派
体の大きさに対して頭の小さいオオアリクイですが、とても賢い動物なのだそうです。オオアリクイの賢い一面について聞きました。
オオアリクイは、アリ塚のアリを食べ切らずに残しておくんです。
理由は諸説あります。残しておくことで数が増え、また食べることができるという説がひとつ。
アリには『蟻酸(※1)』があるため、長い時間かけて食べていると反撃される可能性があります。蟻酸で反撃される前に逃げている、という説もあります。
※1 蟻酸:蟻の出す刺激性の強い酸。皮膚につくと炎症を起こす場合もある
食べ切ってしまうと次に食べられなくなるので、それを防ぐために食べ切らずに残しておいて、増えるのを待ってまた食べに行くというのはとても頭のいい方法ですね。
オオアリクイは人も見分けられているようです。視覚よりも、嗅覚で判断しているのだと思います。通路から私が眺めていると、オオアリクイもこちらを見ていることがあって、私がいることを理解していると思いますね。
自分の世話をしてくれている前田さんがどこにいるのかを気にしているのは、信頼の証でもある気がします。
オオアリクイも威嚇ポーズをする?
アリクイというと、後ろ脚で立ち上がり、前脚を大きく広げる威嚇ポーズを想像した人もいるのではないでしょうか?オオアリクイも威嚇のポーズをするのか、お話を聞いてみました。
します!立ち上がると120cmくらいあるので、かなり迫力があります。
ただ、普段はあまり見ないです。お見合いのときなど、しつこくされるとメスが威嚇ポーズをすることがあります。
120cmというと、6歳前後の子どもくらいはある大きさですよね!それは迫力がありそうです。
オオアリクイの見どころはココ!
「オオアリクイを見に行くなら、ぜひここを見てほしい!」というポイントを前田さんに聞きました。
気に入った丸太があったり、穴掘りに夢中になったりすると、2〜3分は集中して遊んでいます。しばらくすると飽きてそこから離れるんですが、展示場を1周して戻ってくると飽きたことを忘れてまた同じもので遊び始める、ということがあります。
その姿がとてもかわいいんです。
かなりアクティブに動く動物なんですか?
日中は歩き回ったりして、アクティブに動いていますね。
たまにあくびをすることがあります。あくびをすると長い舌を出しているところが見られるので、そこもぜひ見てほしいですね。
江戸川自然動物園では、2024年9月にオオアリクイの赤ちゃんが生まれました。9月21日から赤ちゃんの展示が開始され、2024年10月現在、14時から閉園まで赤ちゃんが展示場に出てくることがあるそうです。
天候や赤ちゃんの体調によって出てこない日もありますが、生後半年くらいはお母さんにおんぶされていることが多いのだとか。今だけの赤ちゃんの姿もぜひ見にいきたいですね。
頭脳派で省エネな絶滅危惧種・オオアリクイに会いに行こう
体長が2mもあったり、体重が50kgあったりと、意外に大きな動物であるオオアリクイ。成体の大きさに対して生まれた時は1.5kgと、野生動物なのに小柄に生まれる意外性など、オオアリクイには知らない生態がいっぱいです。
日本に6園しかないオオアリクイを見られる動物園。もし近くにあるなら、ぜひその目で実物を見に行きましょう!
◆施設情報
所在地:東京都江戸川区北葛西3-2-1
入園料:無料
営業時間:10:00~16:30 ※土曜日・日曜日・祝休日は9時30分から、11月~2月は16:00まで
休園日:月曜日(祝休日の場合は翌日)・年末年始(12月29日~1月1日)※詳細は公式HPを確認してください