この記事は2024年7月時点の内容です。
- 避妊・去勢手術を受けると将来の病気のリスクを減らせる
- 手術を受ける前に愛犬に繁殖を期待するのかどうかよく考えておく
- 避妊・去勢手術を受けると将来的に太りやすくなることがある
- 手術を受けるのに適した時期は犬種によって注意が必要
子犬の保護犬をお迎えした際や、ペットショップで気に入った子犬を見つけてお迎えした場合などに、避妊・去勢手術をすすめられた人も多いでのはないでしょうか。
今回は犬の避妊・去勢手術はどうして必要なのか、手術を受けることによってどのようなメリットやデメリットがあるのかについて獣医師の藤原先生に聞きました。
これから新しい家族を迎えることを検討している人や、今いる家族に手術を受けさせることを検討している人はぜひ参考にしてください。
◆取材・監修:獣医師プロフィール
目次
避妊手術・去勢手術とは
まず初めに、避妊手術・去勢手術とは実際にどのようなことをするのでしょうか?手術の目的・内容・受ける場合の注意点などについて藤原先生に解説してもらいました。
不妊手術という表現を見たり聞いたりすることもあると思いますが、ここでは不妊手術とは雌雄共に生殖器の手術をして取り除くこととし、避妊手術とは雌に対して行う手術、去勢手術とは雄に対して行う手術として解説していきます。
避妊手術ってどんな手術?
避妊手術とは、女の子の犬に妊娠しないことや病気の予防を目的として手術をすることです。実際にはどのような処置が行われるのでしょうか?
外科的に女の子の子宮と卵巣もしくは、卵巣のみを摘出する手術です。手術は一般的に、全身麻酔をかけてお腹を開けて行います。
病院にもよりますが、腹腔鏡を使うこともあります。
避妊手術の場合、子宮と卵巣の両方を取るケースと、卵巣だけを取るケースがあるということですが、この違いにはどんな意味があるのでしょうか。
繁殖を防ぐことを目的としている場合は卵巣を取るだけで目的は果たせるので、卵巣だけを取るという病院も多いと思います。こちらの方が傷が小さくて済みます。
ただ病気を防ぐことを目的とした場合、子宮が残っていれば子宮の病気に罹るリスクは残るわけですから、手術を受ける場合はどこを取るのかきちんと確認しておくといいでしょう。
犬種によっては子宮内膜症になりやすい犬種などもありますので、手術の前にどんな手術をするのか確認しておけるといいですね。
手術後に罹る病気の種類が変わってくるため、避妊手術を受ける前に、手術の内容を確認しておきましょう。
避妊手術の場合、卵巣だけを取る手術と卵巣と子宮の両方を取る手術のどちらかなのかによって変わりますが、手術時間はおおよそ20分〜30分。病院によって日数も変わるそうですが、おおよそ1泊の入院を必要とする病院が多いそうです。
去勢手術ってどんな手術?
去勢手術とは男の子の犬に妊娠させないことや病気の予防を目的として手術をすることです。その内容について藤原先生に聞きました。
去勢手術は、外科的に男の子の精巣を摘出する手術です。一般的に手術は全身麻酔をかけて、精巣付近の皮膚を切開して行います。
睾丸の皮膚を切る方法もあり、この手術をする場合は腹腔鏡を使うことはありません。
避妊手術に比べると、手術時間もおよそ15分程度と時間も短く、入院の必要がない病院も多いそう。藤原先生の病院でも去勢手術の場合は基本的に入院はないそうです。
費用はどれくらいかかる?
実際に手術をすると決めた場合に気になるのは費用のことではないでしょうか。費用面についてもお話を聞きました。
動物病院によってかなり違います。
避妊手術と去勢手術でも費用が違いますし、体重によっても違います。
- 避妊・去勢手術だけするのか
- 血液検査・凝固系検査・レントゲン検査などの検査をして手術するのか
- 腹腔鏡を使って手術するのか
- 電気メスや超音波メスなどを使うのか
- 入院するのか
- 点滴するのか
- 鎮痛剤や鎮静剤を使うのか
- 手術後に服を着させるのか など
どこまでを手術の範囲と考えるのかによって費用は変わってきますので、かなり幅があります。
参考までに藤原先生の病院での費用をお聞きしたところ、避妊手術で3〜4万円・去勢手術で3万円くらいなのだそうです。
手術をする前に考えておくべきこと
手術を受けてしまうと後からは取り戻せない問題点もいくつかあります。
ここでは手術の前に考えておくべきリスクや、実際に手術を受けるのに適した時期について藤原先生に解説してもらいました。
手術をすると子どもはできない
手術を受けた場合、将来的に子どもを持つことはできるのか、手術そのものに何らかのリスクはあるのか、について聞きました。
避妊手術・去勢手術をすると子どもはできなくなります。
また手術後は、太りやすくなるので注意が必要になります。
麻酔に対するリスク、縫合糸のリスクなどもあるので、手術を受ける前によく考るようにしてください。
将来的に愛犬の赤ちゃんを望むのであれば、手術は受けない方がいいでしょう。希望と実際の生活をよく考えてから手術を受けるかどうかを決めるようにしましょう。
手術の時期は早い方がいい?
実際に手術を受ける場合、適した時期や止めた方がいい時期はあるのでしょうか。
一般的には、6~9ヶ月齢で行うことが多いですが、アメリカでは6ヶ月齢より前におこなってもいいのではないかと言う意見が出てきています。
女の子の場合は最初の発情が来る前が望ましいといわれていますが、全ての犬種が当てはまるわけではないので、個々の犬に合わせた時期に手術をすることをおすすめします。
6ヶ月というと、手術は早めに受けた方がいいということでしょうか?
犬種によって違いはあると思います。
特に大型犬の場合、最初の発情が来る時期は小型犬に比べて遅い傾向があります。また避妊手術の際に一緒に胃の固定手術を行うことがあります。この手術を行う場合はあまり早すぎてもよくありません。
手術を受ける時期は、犬種も考慮に入れてかかりつけの獣医師と相談して決めるといいでしょう。
避妊手術の効果と問題点
避妊手術を受けると、どんなメリットがあるのでしょうか。
今までにも多くの避妊手術を行い、臨床医として多くの犬に接してきた先生に、手術の実際についてお話を聞きました。
避妊手術をすると犬の寿命はおよそ25%延びる
避妊手術をすることによって、女の子の犬の場合は寿命が延びるという話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。避妊手術と寿命には関係があるのか、藤原先生に解説してもらいました。
アメリカの研究で、避妊手術した犬の寿命が、26.3%長くなるというデータがあります。
実際に卵巣の摘出を行うので、卵巣腫瘍はなくなります。子宮を取り除くと子宮蓄膿症・子宮内膜炎・子宮がんの心配もなくなります。手術によって、乳腺腫瘍も少なくなると言われています。
避妊手術をすると罹患率の下がる病気
ここでは先生に、避妊手術を受けることで予防できる病気について、詳しく話してもらいました。
避妊手術で卵巣・子宮の両方を取った場合、予防できる病気には下記のようになります。
・子宮疾患:子宮蓄膿症・子宮内膜炎・子宮がん
・卵巣疾患:良性卵巣腫瘍・卵巣がん
・乳腺炎
・乳腺腫瘍
これだけの病気が予防できると考えると、手術にはかなりの効果がありそうですね。
避妊手術のリスクとは
病気の予防にはかなりの効果が期待できることがわかりましたが、実際にはリスクはないのでしょうか。
麻酔のリスクがあることや、代謝エネルギーが減ることで太りやすくなります。
また避妊手術後、尿漏れがおこるようになることがあります。
去勢手術の効果と問題点
ここでは男の子に対して行う去勢手術について、メリット・デメリットを合わせて解説してもらいました。
去勢手術をすると犬の寿命はおよそ14%延びる
避妊手術をすると予防できる病気がたくさんありましたが、去勢手術についてはどうなのでしょうか。
アメリカの研究で、去勢した犬の寿命が、13.8%長くなるというデータがあります。
去勢手術によって精巣を取ると男性ホルモンが低下するので、前立腺肥大・精巣腫瘍・会陰ヘルニア・肛門周囲腺腫に対する予防効果があります。
去勢手術をすると軽減される問題行動とは
去勢手術を行うことによって、発情と交尾に付随する行動が減るのだと藤原先生は言います。具体的にはどのような行動があるのでしょうか。
攻撃性が低下したり、マーキングやマウンティングが減ることがありますが、効果がない子もいます。
これは発情に伴うマーキングやマウンティングなので、優位性を誇示するためのマウンティングや、自分の居場所を示すためのマーキングは去勢手術の有無に関係なく行われます。
去勢手術のリスクとは
病気を予防したり、発情に関連する問題行動を防ぐ可能性のある去勢手術ですが、リスクはないのでしょうか。
麻酔のリスクや、代謝エネルギーが減ることで太りやすくなります。
大型犬の場合は早期に手術を行うと、その後の骨格の発育に問題が起こるケースもあるので、手術の時期についてはかかりつけの獣医師とよく相談してください。
避妊・去勢手術を受けると寿命が延びる可能性がある
避妊・去勢手術の内容やその効果について藤原先生にお話を聞きました。
手術を受ける前に考えておかなければいけないことや、確認する必要のあること、手術を受けた場合に防げる病気について先生は教えてくれました。
愛犬と元気に長く一緒に過ごすためにも、必要な情報を集めて手術を受けるかどうか検討しましょう。
以下の記事では、獣医師さんに聞いた、犬がかかりやすい病気についてまとめています。ぜひ参考にしてください。