この記事は2024年7月時点の内容です。
- 愛犬はいきなりシニアになるわけではない
- 毎日のスキンシップや定期的な検査が大切
- 様子見は大敵。おかしいと思ったらすぐに病院へ
- 年をとることを飼主も一緒に楽しむ
生きている限り、どんな生き物も年を取ることから逃げることはできません。愛犬も例外ではなく、今元気に走り回っていても、少しずつ老いは近づいて来ます。だからこそ、毎日一緒にいられる時間を大切に過ごし、楽しいシニア期を過ごすために今何ができるのか、考えておく必要があります。今回は獣医師の酒井先生に、楽しいシニア期を過ごすための秘訣を教えてもらいました。
◆取材・監修:獣医師プロフィール
目次
おおよそ7歳を過ぎたらシニア期と考えよう
大型犬は老化が早く訪れる、と思っている人も多いのでは?それはウソではないけれど、大型犬だから早くシニア期になるわけではないと酒井先生は話してくれました。
では犬のシニア期に対して、どのように考えておくべきなのでしょうか。
犬種・体調・ライフステージに合わせてお散歩(運動)しよう
犬種によって一概には言えませんが、ほとんどの場合7歳を過ぎたらシニア期と考えていいと、酒井先生はいいます。
大型犬の方が平均的な寿命が短い傾向にあるため、シニア期が早く始まるイメージを持っている人が多いですが、小型犬も大型犬も飼主が思っている以上に早くシニア期はやってくるのだそうです。
犬の高齢化が進む現在、これまで以上にシニア期をいかに健康に、楽しく過ごすかが大切になってきます。そんなシニア期の過ごし方についてお話を聞きました。
運動の量や方法はいろいろあります。
- お散歩は自分のペースで歩く
- カートに乗ってお散歩する
- 室内で軽い運動をする
- 必要に応じてリハビリなどの専門の運動療法を行う など
シニア期は運動の量よりも質を考える時期だといえるかもしれません。
関節に負担をかけずに運動させる方法や、病歴に見合った方法を考えるには、かかりつけの病院に相談してみましょう。
多頭飼育の場合の注意点
多頭飼育をしている場合、シニア期にさしかかった際に注意が必要な場合があると酒井先生は言います。
多頭飼育の場合の注意点について解説してもらいました。
年齢に差のある犬を一緒に飼う場合
シニア期の犬と若い犬を一緒に飼う場合、メリットもあります。シニア期の犬が若返ったり、元気になったりする例も珍しくありません。
逆にシニア期の犬が若い犬に負けまいとして無理をすることもよくあります。
シニア期の犬は落ち着いてのんびりしたいのに、若い犬がかまってほしくて始終ちょっかいを出すということも。
日々様子をみながら、それぞれが別々に過ごす時間や過ごせる場所を作るなど、シニア犬のストレスを軽減させる方法を考える必要があります。
毎日の生活の中で、愛犬の様子を観察し、愛犬が無理をしていそうな場合は細かく対応していく必要がありそうです。
大きさの違う犬を飼う場合
犬種や年齢によって散歩の時間や必要な運動量が違います。
必要な運動量の違う犬を一緒に行動させると、意図せずにどちらかに無理をさせる場合も。
別々にお散歩の時間を確保したり、カートを利用して運動量を調整するなど、毎日の様子や愛犬の動きを見ながら工夫してみてください。
多頭飼育している場合はそれぞれの犬の年齢・大きさ・性格などを考慮して散歩のコースや運動量を考えたほうがいいようです。
愛犬がシニア期に入ったときの工夫と心がまえ
犬は7歳を過ぎたら、シニア期に入ったと思って接するように心がけることを教えてもらいました。では実際にはどんなところに気をつければいいのでしょうか。
例をあげて解説してもらいました。
いきなりシニアになるわけではない
シニア期はある日突然やってくるものではありません。毎日の生活の中で、見た目にはわからないくらい少しずつ変化してくるものです。そんな時期の心構えはどのように考えればいいのでしょうか。
今日出来たことが明日できるとは限らないのがシニア期です。今までは若さでカバーできたことができなくなる。
常に「シニアになり始めている」という意識を持つことが大切です。
日常のスキンシップや家の中、日用品も愛犬に合わせて柔軟に対応を
シニア期に入ったら、日々のちょっとした変化を見逃さないこと、そしてその変化に柔軟に対応することが大切になってきます。
普段の生活の中で気をつけるべき点には、どのようなことがあるのでしょうか。
若いころから、日々スキンシップすることで体の異常を早期に発見することは大切ですが、シニア期にはなおさらスキンシップが重要になってきます。
- それまで好きだったブラッシングを嫌がる
- 熟睡している時間が短い
- トイレの失敗が増える
- ご飯を食べきるのに時間がかかる
このような、本当にささいなことから大きな病気を発見することがあります。
また、小さな変化に柔軟に対応することも必要になってきます。
お散歩もそうですが、室内の段差を解消したり、トイレや食事・お水の器をより愛犬が使いやすいものに変更するなど、日々の愛犬の様子をみながら、少しずつ対応するようにしましょう。
家のレイアウトを変える際も、いきなりガラっと変えるのではなく、少しずつ変えること。いきなり自分の居場所が変わってしまうのは、愛犬にとってストレスになることもあります。
愛犬のストレスはできるだけ軽減しながら、快適な生活空間に変えていきましょう。
日頃から定期検診を受ける習慣をつけよう
目に見える形で異常が起きる前に気づくことが大切だと酒井先生は話します。では具体的にはどうすればいいのでしょうか。
どの年齢であっても定期検診は大切ですが、シニア期になったら、その頻度と検査内容を変えていく必要があります。
シニア期になったら、特別異常を感じていなくても、3か月に一度(1年に4回)、つまり春夏秋冬に一度は健診を受けることをおすすめしています。
犬は人間に換算すると1年でおよそ4歳年を取ると言われていますので、人が1年に1回健康診断を受けるのと同じ頻度だと考えれば、1年に4回は決して多くはない頻度です。
また検査内容ですが、血液検査だけではなく画像検査(超音波検査やレントゲン検査)、尿検査など複数の検査を組み合わせることが大切です。
尿検査は、検査内容しだいでは自宅で採尿したものでも検査をしてもらえることがあります。病院が苦手な愛犬でも、自宅での採尿なら比較的簡単に実施できるので、ぜひやってほしい検査です。
血液検査はとても重要な検査の1つですが決して万能ではありません。犬種や年齢に合わせてかかりつけの獣医師に相談してみてください。
シニア期には「春の健診では何もなかったのに、夏になったら腫瘍が見つかる」なんてことも珍しくないそうです。
季節ごとに健診を受けることで、わずかな兆しを見つけ、早めの対処を心がけましょう。
おかしいと思ったらすぐに獣医師に相談しよう
シニア期になると、今まで出来たことが少しずつ出来なくなり、体調の悪化が急速に進むことも珍しくないそうです。
かかりつけの獣医師と、気軽に相談できるいい関係を築くことが、シニア期の愛犬と暮らす人には大切だと酒井先生は言います。
治療方針についても、一方的に勧められる治療を行うのではなく、飼主の意見や愛犬の状態にあわせて相談しながら決められるのが理想です。
シニア期には、体のあちこちに不調がでることが当たり前です。教科書的に正しい治療だけが、必ずしも飼主と愛犬にベストな結果を生むわけではありません。
基本的な治療をおこなったうえで、
- ハリ・漢方
- マッサージ
- リハビリ
- サプリメント など
いろいろな方法を、相談しながらバランスよく取り入れられるといいと思います。
東洋医学(ハリやマッサージなど)を取り入れる場合は、獣医師が行っているものや、動物病院と提携しているところで施術を受ける方が、持病の状態や治療方針を共有しやすいのでおすすめです。
「なんか食欲がないな」「いつもと何か違うな」と思ったら、自己判断で様子見はせず、まずかかりつけの獣医師に相談できる、そんな関係づくりを心がけましょう。
楽しいシニア期のためには、まず飼主が楽しむことから
犬は共感の動物だと酒井先生はいいます。
「愛犬にとって1番幸せな時間は、飼主自身が楽しそうにしている時だということを忘れないでほしい」と話してくれました。
今までできたことができなくなって、飼主が困った顔をしていると、犬は悲しい気持ちになってしまいます。
できなくなったことを数えるのではなく「落ち着いてきたな」「適切に年齢を重ねてきたな」と、微笑ましく見守りつつ、小さな変化を見逃さないような工夫をすることで、愛犬も安心して過ごせるのではないでしょうか。
愛犬と過ごす時間は何ものにも代え難い幸せな時間です。老いとともに訪れる毎日の変化を前向きにとらえつつ、病気や不調には適切な対応を取ることで、愛犬と一緒にできるだけ長く幸せな時間を過ごしましょう。
以下の記事では、犬の介護について獣医師の酒井先生に解説してもらいました。また、実際に犬の介護をした人の体験談も紹介するので、今後の参考にしてください。