まとめ
  • 怪我をした野鳥やヒナであっても法律によって捕獲・保護は禁じられている
  • 怪我をした野鳥を見つけても「特に何もしない」は正しい選択。どうしても困った時は各都道府県の窓口に連絡して指示を仰ぐ
  • 落ちている、迷子になっている、怪我をしている、どのような状況でも野鳥のヒナを捕獲・保護することはNG
  • 野鳥の繁殖戦略はたくさん子を産み、わずかな個体のみが生き残るというもの。少ない数の子を長い期間かけて育てる人間と同じ感覚で捉えることはできない

毎年、5月10日~16日は「愛鳥週間」です。愛鳥週間と聞くと、ペットの鳥をかわいがることをイメージする人もいるかもしれません。

しかし、愛鳥週間は「野鳥を守り大切にする」ことを目的に設定されました。

今回は愛鳥週間にちなみ、獣医師として野鳥救護の経験を持ち、NPO法人野鳥の病院認定「野生動物リハビリテーター」でもある筆者が、野鳥との正しいつきあい方についてお伝えします。

 

◆この記事を解説してくださった獣医師プロフィール

ttm 医師

岩手大学で動物の病態診断学を学び、獣医師として7年の実績があり、動物園獣医師として活躍中。動物の病態に精通し、対応可能動物は多岐にわたる。

野鳥とは?なぜ守る必要があるの?

はじめに、そもそも野鳥とはどんな鳥を指すのか、なぜ野鳥を守る必要があるのかについてお伝えします。

「野鳥」とは、自然の中で生活する鳥すべて

野鳥とは、野山や森林、川や海などの水辺、その他自然の中で人に飼育されずに生きている鳥すべてを指します。

希少な種だけでなく、都市部でよく見かけるスズメやムクドリ、ハトやカラスなどもすべて野鳥です。

野鳥を守ることは自然環境を守ること

希少な種はともかく、なぜすべての野鳥を守る必要があるのでしょう?

自然はさまざまな生物の「食物連鎖」で成り立ちます。植物は虫に食べられ、虫は野鳥や小動物に食べられます。

野鳥や小動物は肉食動物に食べられるため、もし野鳥がいなくなると肉食動物が生きていけません。

肉食動物がいなくなると、かれらの死骸が土に還らず土の栄養が不足します。その結果、植物や虫も生きられなくなるのです。

食物連鎖の中では、どの生物がいなくなっても、すべての生物が影響を受けます。忘れてはならないのが「私たち人間も例外ではない」ということです。

野鳥を守ることは食物連鎖全体を守り、ひいては私たちの命を守ることにもつながるのです。

覚えておきたい野鳥を守る法律

日本には野鳥や野生動物を守るため「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」という法律があります。

野鳥の捕獲や飼育は禁止

上記の法律によって、野鳥の無許可での捕獲・飼育は禁止されています。自宅のベランダや庭であっても、自治体の許可なく野鳥を捕獲することはできません。怪我をした野鳥や、野鳥のヒナに関しても同様です。

参考:鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 | e-Gov法令検索

怪我した野鳥を見つけたら?

怪我をした野鳥を見つけても「何もしない」というのは正しい選択のひとつです。野鳥が自然の中で命をまっとうすることに対し、人が手出しをする必要はありません。

人為的に野鳥が傷つけられた場合など、特殊な状況においては自治体が救護することもあります。事故で野鳥を傷つけてしまったなど、困った時は各都道府県の窓口に連絡して指示を仰ぎましょう。

参考:日本野鳥の会 : 各都道府県の野生鳥獣担当機関の連絡先リスト|wbsj.org

個人の判断で動物病院に連れて行くことは控えてください。野鳥の救護は自治体から指定された動物病院でしか行えないのです。

怪我をしていても、ヒナは救護対象にはなりません。ヒナについては次の章で詳しく解説します。

野鳥のヒナを見つけても保護せず見守ろう

では、怪我や迷子のヒナを見つけたらどうしたらいいのでしょうか?

実は、落ちている・迷子になっている・怪我をしているなど、どのような状況でも野鳥のヒナを捕獲・保護することはできません。

ヒナを保護してはいけない3つの理由

ヒナを保護してはいけない理由は大きく3つあげられます。

1.親が見守っている「巣立ちビナ」の可能性が高い

人目につくところに出てくるヒナのほとんどは、保護の必要がない「巣立ちビナ」と呼ばれる成長段階のヒナだからです。見た目も幼く、親に励まされないと飛べないこともあるため、巣から落ちたと勘違いされがちです。

しかし、巣立ちビナは、すでに巣から出て親のあとをついて生活しています。必ず離れたところで親が見守っており、人が保護する必要がないどころか、人がそばにいると親がヒナの近くに寄れません。

2.人が育てたヒナは野生にかえれない

人が保護して親と引き離すと、そのヒナの将来的な野生での生存の可能性はほぼゼロになるからです。

人が育てたヒナは自然の中では生きることができません。その場のみの命をつないでも、野生に戻すと残酷な結果が待っています。

3.野鳥の保護は法律で禁止されている

最後の理由として、すでにお伝えした法律により、無許可で保護することは禁止されていることも忘れてはなりません。

「巣立ちビナ」の姿と生態を知ろう

「落ちているヒナを保護した」という人のほとんどが、巣立ちビナを連れてきてしまっています。「これは巣立ちビナなので、もう巣から出て生活している」と伝えると、大変驚かれることが多いです。

ここでは巣立ちビナの姿を知るため、スズメとツバメ、それぞれの巣立ちビナの写真を紹介します。

スズメのヒナ

ツバメのヒナ

巣立ちビナはいわゆる「ヒナ」の顔で、羽もフワフワですね。多くの野鳥は卵からかえるとたった2週間で巣立ちビナに成長し、このような未熟な姿で巣から出ます。

巣立ち直後は自分で餌も獲れません。1週間から長くて3週間程度、親のあとをついて飛ぶ練習をしたり、餌の獲り方を教わります。

こうして、多くの野鳥は卵からかえってわずか1ヶ月程度でひとり立ちするのです。

人間が野鳥のヒナを育てることはできない

人がヒナを保護し、育てて野生にかえすことはできません。ここではその点についてもう少し詳しく解説します。

ヒナは生きる術を親から学ぶ

知識と経験があれば、人でもヒナの体を大人に成長させることは可能です。

しかし、野生で生きるためには、飛び方や餌の獲り方、何が危険なのかなど、多くを学ばなければなりません。

例えば、ツバメは飛びながら虫をキャッチして食べます。これは親から教わってできるようになることで、人が育てたツバメは上手に餌が獲れません

また、人が育てた野鳥は猫やカラスが危険だということも知らないため、すぐに捕食されてしまいます。

野鳥の繁殖戦略は人間とは異なる

多くの野鳥は、約1ヶ月という驚異のスピードで自立し、子育てを終えた親は、またすぐに卵を生みます。

ヒナが生き残る可能性が少ないからこそ、できるだけ多くのヒナをかえして育てるのです。

野鳥のヒナを保護する人は心優しく動物好きです。ヒナを見つけると放っておけない気持ちになるかもしれません。

しかし、少ない数の子供を長い時間をかけて育てる私たち人の感覚を、野鳥の繁殖戦略にあてはめることはできません。

私たちがヒナにしてあげられること

保護はできなくても、目の前にヒナがいて危険が迫っている場合にしてあげられることもあります。

車に轢かれそう・他の動物に襲われそうな時

ヒナを近くの木のできるだけ高いところに置いてあげましょう。乱暴に思えるかもしれませんが、高い枝まで放り投げても構いません。

猫やカラスに狙われているような場合は、茂みなどにヒナを隠してあげましょう。

意識のないヒナを見つけた時

飛ぶ練習の途中で、どこかにぶつかり、脳しんとうを起こしている可能性が高いです。できるだけ安全な場所に移動させ、その場を離れましょう。

脳しんとうの場合、数分から数時間で意識が戻り、親を呼ぶはずです。

巣立ち前のヒナへの対処

羽が生えていない巣立ち前のヒナは、巣を探して戻すのがベストです。巣に戻せない場合は代理の巣にヒナを入れてできるだけ高い位置に設置します。

代理の巣は、小さな箱やカップ麺の容器が便利です。雨が降った時に水が溜まらないよう、底に水抜き穴を開けましょう。

誤ってヒナを保護してしまったら?

一度ヒナを保護してしまっても、すぐに元の場所に戻せば親が迎えに来ます。子育て中の親は簡単にはヒナを諦めないので、1~2日程度であれば再会できる可能性が高いです。

「人のにおいがつくと親が育てなくなる」ということはありません。

身近な野鳥にぜひ目をむけて

都心でも、街を歩いていると本当にたくさんの野鳥を見かけることができます。特に愛鳥週間の時期は、子育てなどで野鳥が最も活動的な季節です。

少し意識して目線を上げると、必死にヒナに餌を運ぶ親鳥の姿や、親のあとをついてまわる巣立ちビナの姿を見ることができるでしょう。

愛鳥週間には、ぜひ身近な野鳥に目を向けてみてください

「愛鳥週間」とは何かを詳しく紹介しています。あわせてチェックしてみてください。

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