この記事は2024年7月時点の内容です。
- 在来種のオオサンショウウオは国の特別天然記念物に指定されている
- オオサンショウウオは人間よりも長生きかも!?謎につつまれた寿命
- 日本でも世界でも保護されているいきものである
- オオサンショウウオはオスが育児をする
オオサンショウウオという、生きた化石といわれ、日本の特別天然記念物にも指定されているいきものを知っていますか?
名前は聞いたことがあるけれど、実際にどんないきものなのかよくわからない、という人も多いと思います。
まだまだ謎の多いオオサンショウウオの生態について、京都水族館でオオサンショウウオの飼育を担当している石川さんに、お話を聞きました。
京都水族館は、京都市と京都大学が中心となって行うオオサンショウウオの野外調査に同行しています。
絶滅危惧種にも指定されたオオサンショウウオの意外な一面も教えてくれました。
◆取材・監修:飼育スタッフ
目次
世界最大級の両生類オオサンショウウオってどんないきもの?
ほとんどの時間を水の中で過ごすオオサンショウウオ。「ウオ」と名前につくので、魚の仲間だと思っている人もいるかもしれませんが、オオサンショウウオは世界最大級の両生類です。
幼生はエラ呼吸と皮膚呼吸ですが、成長するとエラが消失し、肺呼吸と皮膚呼吸に変わります。
まだまだわかっていないことの多いいきもの、オオサンショウウオの生態にはびっくりすることがいっぱい!
そんなオオサンショウウオについて石川さんに解説してもらいました。
国の特別天然記念物オオサンショウウオとは?
日本の特別天然記念物に指定されているオオサンショウウオ。天然記念物に指定されているのは日本の固有種である在来種のオオサンショウウオなのだそうです。
現在は数十年前に中国から食用などの目的で輸入されたチュウゴクオオサンショウウオが野生化し、交雑が進んでしまっていて、在来種のオオサンショウウオの数が減ってしまっていると石川さんは話します。
見た目で違いはある程度わかります。在来種のオオサンショウウオはイボがしっかりしています。チュウゴクオオサンショウウオは、在来種よりもやや体が大きめで、色が薄く口先が尖っているのが特徴です。ただ、交雑個体は在来種とチュウゴクオオサンショウウオの両方の特徴を持つことがあるので、見分けるのは難しいです。
野外調査で日頃からいろいろな個体に接している石川さん。個体の見分け方までわかりやすく説明してくれました。
↑脱皮中のオオサンショウウオ。脱皮中の皮に自分が吐いた呼気が、気泡になって入っているのが見える珍しい1枚。
食用だった時期があるって本当!?
現在、野生下での在来種とチュウゴクオオサンショウウオの交雑化が問題視されているというお話でした。 ではチュウゴクオオサンショウウオがどうして日本に来たのでしょうか? またオオサンショウウオが食用だったというは本当なのでしょうか?
食用にされていた時期はありますね。
チュウゴクオオサンショウウオが日本に持ち込まれたのも、食用のためだったといわれています。それが逃げ出した、または放流されて今の状況になったと考えられています。
驚くような話ですが、中国では高級食材なのだとか。
現在はチュウゴクオオサンショウウオも希少性が高く、保護の対象となり、食用になることは少なくなったそうです。
国の特別天然記念物に指定されるまでは、食用とされることもあったようですが、今の日本ではオオサンショウウオが食用になることはないと石川さんは話してくれました。
オオサンショウウオの寿命は50年以上!?
謎の多いいきもののオオサンショウウオですが、その寿命はどのくらいなのでしょうか?
石川さんにお話を聞いたところ……。
正確にはわかってないというのが正直なところです。
人間よりも長く生きる可能性もあると考えられており、1人の研究者の記録では追いきれないというのが実状です。
長寿の個体は100年以上生きるのではないかとも考えられています。
人よりも長生きする可能性も!?
さすが約2300万年前から姿の変わっていないといわれるいきものですね。
まだまだ謎の解明は先のようです。
絶滅危惧Ⅱ類のオオサンショウウオ
絶滅危惧Ⅱ類とは、絶滅の危惧が増大していて、近い将来絶滅危惧IBになる可能性が高いと思われるいきもの分類です。
現在ここに分類されているオオサンショウウオ。
オオサンショウウオを取り巻く現在の状況を石川さんに聞いてみました。
オオサンショウウオを取り巻く環境
オオサンショウウオは1952年に国の特別天然記念物に指定され、保護対象になっています。
またオオサンショウウオは、ワシントン条約でも保護対象となっているため、オオサンショウウオとチュウゴクオオサンショウウオの両方が保護対象として守られているのです。
そのため自由に捕獲したり移動したりすることはできないのだそうです。
現在、持ち込まれたチュウゴクオオサンショウウオは捕獲されて国内からはほとんどいなくなっているはずです。
野外調査で捕まえた個体を、研究機関や水族館などで飼育することもありますが、寿命の長いいきもので終生飼育も大変なため、新たに発見した在来種はマイクロチップを入れてリリースすることもあります。
研究が難航する理由は、日本と世界の法律に守られていることや、その寿命の長さにも関係あるのですね。
京都・鴨川にも生息するオオサンショウウオ
オオサンショウウオの野外調査にも参加するという石川さん。
実際の調査で見た、オオサンショウウオの生態について聞いてみました。
野生のオオサンショウウオは上流の水のきれいな水温の低いところに住んでいます。交雑個体のほうが在来種よりも大型化する傾向があり、下流に流されて堰などを登れずに、そのままそこに住み着いてしまうことも多いです。
オオサンショウウオが市街地に出没することも稀にありますね。
在来種を守るため、野外調査でマイクロチップを埋めるなどして個体管理が進められていますが、法に守られたいきもののため、限られた機関でしか取り扱うことができないというのが現状です。
もしも街中でオオサンショウウオを見つけても、保護対象動物なので、勝手に捕獲したり傷つけたりすると、罪に問われる可能性があります。そっと見守ってあげてください。
飼育スタッフに聞くオオサンショウウオの謎
京都水族館で飼育されているオオサンショウウオの中で一番大きな個体は、1m61cm・33.4kgのオスだそうです。(2023年測定時)
1m61cmといえば成人女性とほぼ同じくらいのサイズ。
そんなオオサンショウウオの普段の姿について石川さんに話してもらいました。
オオサンショウウオって何を食べるの?
オオサンショウウオは日ごろ何を食べているのでしょうか?
野生下では川に生息するものは魚もカニも、時には鳥や小型の哺乳類まで何でも食べます。ドジョウも好きみたいですね。
水族館では5日に1回、ニジマスやウグイを5cmくらいの切り身にして1個か2個食べています。
個体ごとのごはんの量は、年に1度行っている全長体重測定の結果で変えています。
夜行性なので昼間はじっとしていることが多いそうですが、ごはんタイムにはダイナミックに動く姿を見られるのだそうです。
棒に魚の切り身をさしてあげるようにしています。素手であげることはありません。
歯が鋭く、上に2列・下に1列、たくさん生えていて、アゴの力もとても強いです。
さらにオオサンショウウオは視力が弱く、口の近くに近づいたものは食べ物だと思って何でも噛みついてしまいます。
そのため基本的に頭の近くには手を出さないというのが鉄則です!
鋭い歯と強力なアゴを持っているというオオサンショウウオ。
5日に1回のごはんタイムはおおよそ15:30〜だそう。
その日のごはんタイムの詳しい時間は飼育スタッフに聞いて、ぜひごはんの瞬間を観てほしいと石川さんは話してくれました。
オオサンショウウオのかわいいポイントを教えて!
毎日オオサンショウウオと向き合う飼育スタッフだからこそ、知っているオオサンショウウオのかわいいポイントについて、石川さんに教えてもらいました。
よく観察してみると、1頭1頭とても個体差があるので、その辺をチェックしてほしいですね。
あとは体のいろいろな部分をじっくり観察してほしいです。
小さい手や目。目は悪く、明るさや物の大まかな動きくらいしか知覚できないといわれています。
じっと見ていると息継ぎで上がってくることがあります。そういった1つ1つの動きがとてもかわいいので、ぜひじっくり観てほしいです。
石川さんのおすすめは、体のわりに小さい手と目だそうです。
ぜひじっくり観てみたいですね。
オオサンショウウオは実はイクメンだった?!
オオサンショウウオの意外な一面について石川さんに聞いてみたところ、オオサンショウウオのイクメンぶりについて話してくれました。
オオサンショウウオの子育てはオスの仕事なんです。
体外受精をするいきものの中で、オオサンショウウオのようにオスが子育てをする例は特殊です。
夏の終わりにオスが子育てに適した巣穴を見つけて中を掃除します。そこにメスが来て産卵して、どこかに行ってしまうんです。
そこからオスは尻尾を使って卵に新鮮な水を供給しながら、外敵から巣穴を守ります。
オスは、孵化するまでずっと面倒を見続け、孵化した後も2ヶ月くらいは外敵から守ったりと、幼生が巣から出るまでお世話をしていますね。
おおよそ8月下旬〜9月に産卵が行われ、秋に孵化し、年明け頃に幼生が巣を離れます。それまでオスの子育てが続くのだそうです。
大きな体に似合わない、繊細な作業を続けるオスの育児に感動です。
生きた化石・国の特別天然記念物のオオサンショウウオは愛すべきイクメンだった!
大きくて、一見キモカワなオオサンショウウオは、穏やかでゆったりと生きているいきものでした。
普段から、ほぼ水中で生息し、夜行性で昼間は川影でじっとしているオオサンショウウオ。
オスは3ヶ月もの間、寝食を惜しんで子育てをするほどのイクメンで、人と同じくらい長生きするオオサンショウウオ。
石川さんにお話を聞いて、まだまだ謎の多いオオサンショウウオの、これからの発見が楽しみになりました。
◆施設情報
京都水族館
所在地:京都市下京区観喜寺町35-1(梅小路公園内)
入館料:大人(大学生含む)2,400円
高校生1,800円
小中学生1,200円幼児(3歳以上)800円
営業時間:10:00~18:00(季節により変動あり、受付は閉館の1時間前まで)※詳細は公式HPをご覧ください
以下の記事では、京都水族館のチンアナゴの飼育スタッフさんにもお話を伺っています。