まとめ
  • ハズバンダリートレーニングとは「正の強化」で教える方法
  • 動物園や水族館で使われている、動物に協力してもらう方法
  • 「褒める」を基本として、動物には決して罰を与えない
  • 動物病院嫌いなペットにも応用可能

動物病院が苦手な犬は多いですね。あまりに怯える犬の場合、正確な検査が実施できなかったり、犬自身やスタッフの安全の確保が難しいことがあります。さらに大きな問題は、通院が大きなストレスになることで、体調を崩した時や年齢を重ねた際、受診そのものが犬の体調を悪化させる原因になることです。今回は「ハズバンダリートレーニング」のエッセンスを使い、動物病院が苦手な犬が楽しみながら練習できる方法を紹介します。

ハズバンダリートレーニングって?一般の飼い主にもできるの?

はじめにハズバンダリートレーニングとはなにかを紹介し、今回のコラムで紹介したいポイントを解説します。

ハズバンダリートレーニングとは?

ハズバンダリートレーニングは、採血などの受診に必要な行動を、動物に「正の強化」で教える方法です。正の強化そのものについては、次の章で詳しくお伝えしますが、イメージとしては褒めるしつけ」に近いです。褒めるしつけでは、言葉そのものや撫でる行為などで動物に「今の行動は正しかったよ」と教えます。一方、ハズバンダリートレーニングでは基本的に言葉ではなく「おやつ」を使って行動が正しかったことを伝えます。

もともとは動物園・水族館で行われてきたトレーニング

ハズバンダリートレーニングは、もともと動物園・水族館で野生動物の健康管理のために広まったトレーニング方法です。動物園・水族館で飼育される野生動物は、体重測定・爪切り・採血・検温など簡単な健康診断の時でも麻酔を利用するのが普通でした。動物の体への負担を軽減するため、できるだけ麻酔を利用せずに健康管理ができるよう、動物自身に協力してもらう方法として広がったトレーニングがハズバンダリートレーニングです。

今回のゴールはエッセンスを理解し利用できること

ハズバンダリートレーニングをきちんと学ぶためには、応用行動分析学などの理論を勉強し、多くの専門用語を覚えなくてはなりません。プロの飼育員やトレーナーも日々試行錯誤で学び続けるトレーニング方法なので、このコラムで全てを紹介することはできません。今回のコラムの目標は、ハズバンダリートレーニングの根本である「動物が楽しみながらトレーニングする」というエッセンスを理解し利用できるようになることです。

ハズバンダリートレーニングの方法とポイント

ハズバンダリートレーニングの基本の方法と、絶対に忘れてはいけない一番重要なポイントを紹介します。

ハズバンダリートレーニングは「正の強化」を使う

「強化」とは行動を繰り返すことです。正の強化は、動物が好ましい行動をとった「直後」におやつを与え、直前の行動を強化する方法です。おやつのことは専門用語で「強化子」(きょうかし)といいます。大切なのは強化したい行動をとった時、強化子を瞬時に与えることです。普通の生活ではまず言葉で褒め、そのあとにおやつを与えることが多いですね。今回のトレーニングでは褒めるより先に、おやつを出すことを意識しましょう。

トレーニングにはホイッスルが必要?ホイッスルの役割

ハズバンダリートレーニングでは、強化子(おやつ)の提示の際、同時にホイッスルやクリッカーなどで音を鳴らします。ホイッスルの音が強化子と結びつき、動物は「この音が鳴ればおやつがもらえる」と覚えるのです。イルカショーなどがわかりやすい例ですが、トレーニングの現場では、動物とトレーナーの物理的な距離が離れているなど、すぐにおやつを与えるのが難しい場合があります。そのような場合も、ホイッスルとおやつが結びついていれば、ホイッスルの音で動物は「今の行動は正しかった、おやつをもらえる!」と知ることができるのです。今回のコラムで紹介する方法は、犬の飼い主が簡単に実施できる方法なので、ホイッスルは使用しません。

動物はいつでも逃げられるし、失敗しても「罰」はない

ハズバンダリートレーニングで重要なポイントは2点です。

  1. 動物はいつでもその場から逃げられること
  2. 絶対に罰を受けないこと

です。ハズバンダリートレーニングは、動物をつないだり、ケージ内など逃げられない状況で行うことはありません。また、動物は逃げたり間違った行動をとっても絶対に罰されません。トレーニングに参加して好ましい行動を取ればおやつをもらえるという利益がありますが、いかなる状況でも不利益は一切ないのです。動物本人が「やってもやらなくてもいいなら、やった方がおやつをもらえて楽しいからやろう」という選択をしてくれるように誘導するのがハズバンダリートレーニングの大切な考えです。

動物病院嫌いの愛犬への応用

それでは、実際のトレーニング方法を紹介します。強化子のおやつをひと口サイズに切って用意しましょう。

社会化されていない犬の場合

動物病院が苦手な犬の中には、他の犬に会うだけで吠えてしまうような「社会化」が不足しているケースがあります。まずは他の犬という「嫌な刺激」に対して慣れてもらいましょう。他の犬と会って唸りそうになったらすかさずおやつを与えます。嫌な刺激と同時におやつという嬉しい刺激を得ることで、嫌な刺激が緩和されるのです。この方法を「系統的脱感作」と言い、野生動物のハズバンダリートレーニングの前段階で一般的に行われる方法です。

まずは動物病院のなにが苦手なのかを分析しよう

社会化がされていても、動物病院には、病院という場所そのもの・獣医師など知らない人・普段触られることのない部分を触られること・見慣れない器具など、日常で体験しないさまざまな刺激があります。犬によっては、動物病院の入口で突っ張る子もいますし、待合室では元気でも診察台に載った途端震えだす子もいます。獣医師が体に触れたとたん、噛むような仕草をする子もいます。まずは、犬が何を嫌がっているのかを観察しましょう。

動物病院そのものが苦手な愛犬へのトレーニング

動物病院自体が苦手な場合、病院スタッフにお願いしてあらかじめ犬の好きなおやつを渡しておき、何もしない日に行ってスタッフからおやつをもらいます。繰り返すうちに、犬にとって動物病院はおやつをもらえる楽しい場所になります。大型犬など、抱っこやケージに入れられない犬が入り口で突っ張って入れない場合もありますね。この場合、まず近づけるところまで近づきます。そこから一歩でも入り口に近づけたらおやつをあげます。犬をおやつで誘導しても構いません。おやつを見せて犬が一歩でも前進したらそのおやつをあげましょう。動物病院の中に入れたらスタッフからもおやつをもらいます。飼い主はリードなどで犬を引っ張らないように注意しましょう。

苦手な場所を触られると怒る愛犬へのトレーニング

顔や足先・お尻など、普段触られることのない場所を触られると怒ってしまうような犬もいますね。例えば、足先を触られるのが苦手な犬には、まず飼い主の手を犬が嫌がらないところまで近づけます。はじめはかなり遠くても構いません。手を近づけたらおやつを与え、また少し近づけたらおやつを与えることを繰り返します。もし途中で犬が逃げてしまったり、うなるなどの拒否をした場合、おやつは与えませんが好きにさせます。繰り返していくうちに、犬は足を触らせてくれるようになります。さらに、足を持ち挙げておやつ、爪切りを近づけておやつ、爪切りで足先を触っておやつ・・・というステップを踏むと、爪切りなどもらくにできるようになります。

注意点!おやつは小さく、カロリーの把握もしましょう

ハズバンダリートレーニングでは、強化子(おやつ)を与える回数が多いほど、行動が強化されます。大きなおやつではすぐにお腹がいっぱいになるため、使うおやつはなるべく小さく、ひと口で飲み込めるサイズにしましょう。一瞬で食べきって、またすぐにおやつが欲しい!と思うサイズが最適です。おやつの与えすぎは肥満につながります。与えたおやつの分のカロリーを確認して、普段のフードから引き算することも必要です。

興味が湧いたら引き続き情報を取り入れましょう!

今回は、動物病院が苦手な犬が楽しく克服できるように、ハズバンダリートレーニングのポイントの部分を解説しました。興味を持った方は、ぜひインターネットなどを利用して引き続き情報を取り入れてみましょう。トレーニング次第では、動物病院でのさまざまな検査がストレスなく受けられるようになります。犬と一緒に飼い主も楽しみながら健康管理をできるようになることが犬の長生きにもつながるでしょう。

 

◆この記事を解説してくださった獣医師プロフィール

ttm 医師

岩手大学で動物の病態診断学を学び、獣医師として7年の実績があり、動物園獣医師として活躍中。動物の病態に精通し、対応可能動物は多岐にわたる。