この記事は2024年6月時点の内容です。
- 那須ハイランドパークでは4年前から犬の保護活動を行なっている
- 2022年12月末までに約130頭の犬が里親の元に巣立っている
- 保護犬の多くは人間を怖いと思っている
- 保護犬との信頼関係を築くには根気が必要
栃木県那須郡にある那須ハイランドパークでは、4年前から犬を保護して里親を探すという活動、SOS(The Small life One can Save)活動をしています。那須ハイランドパークというテーマパークが、どういう経緯で犬の保護活動を始めることになったのでしょうか。企業体として行う保護活動の現状とは、どのような形態で行われているのか、お話を聞いてみました。テーマパークと犬の保護の両立を実現した、この4年間の活動内容と併せて、那須ハイランドパークのSOS活動担当をしている大島さんが、インタビューに答えてくれました。
◆取材・監修:飼育スタッフ
当初はりんどう湖ファミリー牧場に勤務。2021年にりんどう湖ファミリー牧場でもSOS活動を開始するにあたりSOS担当に就任。日々都や県の動物愛護センターの情報を調べ、犬の保護活動に邁進している。
目次
那須ハイランドパークで犬の保護活動をする理由
那須ハイランドパークという首都圏からも多くの人が訪れるテーマパークで、動物の保護活動を行うことにはメリットがあります。また、企業が動物の保護を行うことにも大きな意義があり、今までの多くの保護団体が、ボランティアと寄付で活動費をまかなってきた現状を改善するための大きな一歩といえる活動です。
那須ハイランドパークという、都心からも近隣県からも多数の家族連れの訪れる場所での保護犬活動は、今まで保護犬の存在を知らなかった人にも、広くあまねくその存在を周知することが可能です。現在では系列施設の那須高原りんどう湖ファミリー牧場でもSOS活動を行っており、多くの意味で動物保護活動の新しい形を見せてくれています。
那須ハイランドパークとは?
栃木県那須郡にある、40以上のアトラクション・レストラン・ショップ・自然体験ゾーン・室内外のドッグランなどを併設したテーマパークです。園内には犬と一緒に乗ることができるアトラクションや、犬と一緒に食事のできるカフェなどもあり、ペット同伴で楽しめるのも大きな魅力です。このテーマパークの敷地の一角でSOS活動は行われており、2023年は1月10日〜2月28日まで那須ハイランドパークは冬季休業中ですが、里親希望者のお見合いは随時受付けてくれます。
那須ハイランドパークで犬の保護活動を始めたきっかけとは?
最初の発案は「那須ハイランドパークを、日本一わんこフレンドリーの遊園地にする」という想いから、犬の乗車可能アトラクションを増やしつつ、犬を連れた人にも楽しんでもらえる施設運営を行っており、その過程で保護犬活動のことを知ったそうです。その際に、那須に広い土地を持っていたことや、立地的に犬の鳴き声なども気にせずに飼育が可能なことなどから、犬の保護活動を行うのに適しているという判断になったのだとか。2017年に駐車場に迷い込んできた犬を保護したことも1つのきっかけになり、犬の保護活動が始まりました。
2020年のデータで、日本の国内全体で年間4059頭の犬に殺処分が行われています。この数をゼロにする!そして、企業としてSDGs(※1)実現達成する!この目標のために、企業のリソースを有効に使ってSOS活動は行なわれています。
※1:SDGsは「持続可能な開発目標」といわれ、世界中で問題となっている差別・人権・貧困・環境破壊といった数多くの課題を、2030年までに解決しようという取組みのこと
保護活動の内容を教えてください
保護当初の様子が、スタッフの献身的なお世話のおかげで…
こんな風に人に慣れてくれるようになります!
現在那須ハイランドパークでは30頭前後の犬を保護しています。2021年から保護活動に系列施設の那須高原りんどう湖ファミリー牧場が加わり、現在は10頭前後の保護犬が那須高原りんどう湖ファミリー牧場に保護されています。保護する犬はどのように決まるのか、譲渡が決まる際にはどんなドラマがあるのか、実際の保護活動の詳しい内容について聞いてみました。
実際に犬を保護する流れとは?
SOS活動のなかで、迷っている犬を直接捕獲しに行くというような活動はしていないそうです。各都道府県の動物愛護センターなどで収容されている犬を引き取ったり、他の保護団体から引き受けたりという流れで犬の保護を行っています。
各自治体の動物愛護センターのHPはいつもチェックしていると大島さんは話してくれました。
保護してから里親を探すまで
那須ハイランドパークに保護犬を見にくる人は、7割の人が公式HPからの問合せだそうです。そこからお見合いを希望している子の性格・特徴・病歴・などを細かく説明し、納得してもらった上で初めてお見合いになります。それから里親さんのお家の状況を動画や画像で見せてもらい、必要な対策を相談します。
そこで一番重視するのは脱走対策。保護犬は多くの子が心に傷を持っています。ちょっとした刺激や音でパニックになる子も少なくありません。そんなときにすぐに外に出られるような状況では、大きな事故につながりかねないため、脱走対策にはとにかく気をつけてもらうようにしているそうです。
犬が生活するお部屋などの環境を調査し、脱走ルートをもれなくつぶすことに協力してもらえるご家庭に、トライアルに出すというのが一連の流れになります。トライアルはおおよそ2週間。この期間を経て譲渡へとつながります。
トライアルで気をつけて欲しいこと
まず保護犬とペットショップにいる犬は根本的に対応が違ってくるということを忘れないで欲しいと、SOSの担当者である大島さんは言います。保護犬はペットショップにいる犬のように、最初から犬の方から人に寄ってきて顔をペロペロなめてくれるというようなことはまずありません。
保護犬の多くは人に対して警戒心を持っています。保護されてからスタッフに大切にされるうちに、人に対する警戒心が薄くなる子ももちろんいますが、多くの子は人(特に初対面の人間)は怖い、と思っている子が多いのです。そんな保護犬がすぐに人に懐いてくれないからといって飼うのを諦めてしまわないで欲しい、そう大島さんは話してくれました。時間をかけて信頼関係を築いていくことは可能ですし、多くの保護犬はそうやって新しい家族の元で生活しています。最初の関係構築には時間がかかるかもしれませんが、辛抱強く待ってあげることで、犬も心を開いてくれます。その時間を焦らずに、犬が心を開いてくれるまで待ってあげて欲しいと思います。
トライアル中に対応に困ったときはいつでもSOSのスタッフに質問や相談ができ、1つ1つ丁寧にスタッフが答えてもらえるので、安心してトライアルに取り組んでもらえるでしょう。
家では犬が怯えたり驚いたりして家から飛び出してしまわないように、脱走対策には万全を期すようにしてください。
譲渡が決まってからの手続きとその後
譲渡が決まると譲渡の合意書を書く必要があります。譲渡時までにワクチンの接種と避妊または去勢までをSOSで済ませてくれているので、マイクロチップの登録先の変更費用4,000円程度が必要になります。
2022年6月から犬や猫にはマイクロチップの装着が義務付けられています。そのため保護した時点ですぐに犬にマイクロチップを装着するのだそうです。しかし装着時の登録先は那須ハイランドパーク(または那須高原りんどう湖ファミリー牧場)になっているので、登録先を変更しなければなりません。
また新しい住所の行政区で犬の登録の義務があるため、譲渡から1ヵ月以内に犬を登録して、犬鑑札の画像をSOSまで送る必要があります。
動物保護の新しいあり方を創る企業主体の保護活動
企業のSDGs活動の1つとして始められた犬の保護活動も本格化してからすでに4年が経過し、2022年末までに130頭の犬が新しい家族の元に巣立ちました。現在は月に5〜6頭の犬が新しい家族の元に巣立っていますが、今後はこれを10頭くらいには増やしていきたいと大島さんは話してくれました。
現在那須ハイランドパークには保護犬のためのスタッフが6名、那須高原りんどう湖ファミリー牧場には3名いるそうです。お話をうかがうにつれ、企業の行う動物の保護活動は今後もぜひ広がって欲しいと感じました。
SOS活動の公式HPでは、犬のお見合い・トライアル・譲渡の情報が丁寧に日々更新されていて、スタッフが愛情深く犬と向き合っていることがうかがえます。ぜひ一度SOSのHPをのぞいて、可愛い犬たちの姿を見るとともに、新しい家族を迎える1つの方法として参考にしてください。
◆施設情報
那須ハイランドパーク
所在地:栃木県那須郡那須町高久乙3375