犬の飼育経験がある人は、一度は多頭飼いを夢見たことがあるのではないでしょうか。1匹でも愛おしいペットが2匹に増えると、喜びも楽しさは2倍にも3倍にもなります。しかし多頭飼いでは、ただ新米犬を迎え入れればよいわけではありません

今回は、犬の多頭飼いで気をつけるべきポイントについて紹介します。猫と比べると犬は多頭飼いが成功しやすいとされていますが、それは飼主の正しい知識があってこそ。ポイントや注意点を学び、スムーズな多頭飼いを開始しましょう。

多頭飼いを決める前に、考えておくべき5つのこと

ここでは、多頭飼いを決める前に考えておくべきことを紹介します。多頭飼いを成功させるために必要なのは、しつけだけではありません。飼主のライフスタイルが多頭飼いに向いているのかをチェックする必要があります。家族と一緒に住んでいる人は、相談や情報の共有をしながら実現に向けて歩んでいきましょう。

1.多頭飼いできるスペースはあるのか

多頭飼いを決める際にまずチェックしたいのが、家のスペースの問題です。犬は比較的新しい空間に慣れやすい生き物ですが、多頭飼いの場合はそれぞれのパーソナルスペースが必要になります。

具体的には、2匹分のケージを余裕を持って置ける空間が必要です。また犬同士の相性が悪い可能性も考え、それぞれが別の空間に避難できる部屋数があることが望ましいとされています。何かしらの事情で散歩ができない際も、2匹を室内で遊ばせられるスペースを確保しましょう。

2.金銭的にどのくらい負担が増えるのか

頭数が増えると当然必要な金銭的負担も増えます。新米犬の犬種やサイズにもよりますが、以下に1ヶ月の必要額として目安となる金額を紹介します。

  • ドライフード:1,000~3,000円
  • おやつ・ウェットフード:1,000~3,000円
  • 消耗品:3,000円 ※ペットシーツなど

さらに、増えた頭数の分だけ医療費やワクチン代も必要になります。※年間必要額の参考

  • 狂犬病予防注射……3,500円
  • ワクチン接種……5,000~10,000円
  • 健康診断……5,000~10,000円
  • フィラリア薬……5,000~10,000円
  • ノミダニ薬……12,000~18,000円

当然ながら、頭数が増えれば怪我や病気の可能性も。迎え入れた後に先天性の病気が発覚する場合もあります。人間と同様に、犬の体にもいつ何が起こるかわからないため「これだけ収入や貯蓄があれば絶対に大丈夫」とは言い切れません。あくまで参考としてご活用ください。

3.犬種の相性や大きさの相性はどうか

先住犬と新米犬の相性は実際に会わせてみるまでわかりませんが、犬種や大きさにより一定の目安をつけることは可能です。例えば柴犬やペキニーズなどの一部犬種は、神経質な子や人(犬)見知りをしやすい子が多く、多頭飼いの難易度が上がる傾向に。

また大型犬と小型犬の共生は、思わぬ事故や怪我の原因になります。とはいえ、すべての犬種の組合せで多頭飼いが成功する可能性はあります。飼主がケースごとの注意点に留意し、環境を整えたりしつけをおこなったりすることが大切です。

4.先住犬の性格は多頭飼いに向いているのか

犬種に限らず、犬にはそれぞれの性格があります。先住犬の性格が多頭飼いに向いているのかを今一度確認しましょう。例えば、極度の人(犬)見知りだったり、臆病な性格だったりはしないでしょうか。

憧れの多頭飼いを叶えようとした結果、先住犬がストレスで心身を壊してしまっては元も子もありません。特別にフレンドリーである必要はありませんが、他の犬と同じ空間で生活できる胆力や友好性を持っているかは注意深く判断しましょう。

5.後から保護犬をお迎えする場合は

迎え入れる新米犬に保護犬を想定している場合は、特別な注意が必要です。保護犬はもともと人に飼われた経験がなかったり、何かしらの事情で前の飼主から手放されたり、迷子になったまま元のおうちに戻れなくなったりした子たち。多くの場合、心に傷を負っています。

またペットショップやブリーダーから迎え入れる子よりも、警戒心が高かったり臆病だったりする子が多い傾向にあります。一般的な犬よりもしつけや共生に手がかかる可能性があると覚えておきましょう。根気よく対応してあげることで、将来的に仲よくなれるケースも多いとされています。

多頭飼いを始める際の注意点

ここでは、多頭飼いを始める際の注意点として挙げられるものを紹介します。楽しく賑やかな多頭飼いの背景には、犬同士の良好な関係性の維持が必要です。健康面にも配慮しつつ、安全を確保した状態で多頭飼いを始められるように準備を行いましょう。

ワクチン接種が済むまでは一緒にしない

多頭飼いを始める際は、新米犬のワクチン接種が完全に完了するまでは先住犬との接触を控えましょう。具体的には、初回の狂犬病ワクチンと3回目の混合ワクチンの接種が完了するまでです(動物病院によっては2回の混合接種でも可としているケースもありますが、今回の記事ではより確実な安全性のために3回目の接種後を推奨します)。

混合ワクチンは、1回目のワクチンの2〜4週間後に2回目を接種し、同期間後に3回目を接種します。狂犬病ワクチンは、生後91日以上の犬を迎え入れた30日以内に接種することが義務づけられています。お散歩デビューが可能となるのも同時期です。

2頭を一緒にしたらしばらくは目を離さない

晴れてワクチン接種が終わり2頭を接触させる際は、飼主は絶対に目を離さないことを心がけてください。顔合わせの際は先住犬も新米犬も緊張している状態です。小さなきっかけで怪我や事故につながりかねません。

可能であればまずは先住犬を抱っこして、鼻やお尻の匂いを嗅がせ、少しずつ距離を縮めていきましょう。最初はサークルやケージ越しの対面をするのも手です。喧嘩になりそうな雰囲気を感じ取ったら、すぐに物理的な距離感を設けましょう。

犬同士の関係構築に飼い主が手を出さない

先住犬と新米犬が良好な関係を築けるように、つい手を出したくなってしまうかもしれません。しかし犬たちは犬の世界の中で、お互いの関係性に上手い落とし所を付けるために、考えながらコミュニケーションをとろうとしています。

飼主が手を出すことで彼らの試行錯誤のチャンスを奪い、良好な関係構築が遅れてしまう可能性があります。怪我や事故などの危険性がない限りは、基本的に見守る姿勢をとりましょう。

先住犬の心のケアを忘れない

多頭飼いにおいて最優先するべきは、先住犬の心のケアです。今まで独り占めしていた飼主が、突然見ず知らずの犬にばかり構うようになってしまうのです。プライドが傷つくと、飼主の気を引くために粗相や無駄噛み、無駄吠えなどの問題行動も増えるといわれています。

何事においても、すべて先住犬を優先するように心がけてください。ごはんをあげる順番や名前を呼ぶ順番、散歩の際の先頭、帰宅後のスキンシップなども「まずは先住犬が先」を徹底させることで心のケアになります。

先住犬が多頭飼いに向かない場合のケア方法

ここでは、先住犬が多頭飼いに向かない場合のケア方法について紹介します。飼主がどんなに努力しても、犬同士の相性が改善されない可能性はあるものです。先住犬との付合い方に変化を取入れ、ストレスのない共存を目指しましょう。

先住犬の社会化が進んでいない場合

先住犬が新米犬と仲よくできない場合、先住犬の社会化が進んでいない可能性があります。社会化とは、自分以外の社会・世界と馴染み共生する過程です。成犬になった後でも、少しずつ社会化を進めていくことは可能です。

  • 散歩の回数を増やす
  • 散歩ルートを賑やかな場所にする
  • 色々な音や匂いに触れさせる
  • 色々なタイプの人や犬に会う
  • 他の犬と遊ぶ機会を取入れる

これらの習慣を取入れ、先住犬の社会化をサポートしていきましょう。自分以外の犬の存在は特異なものではなく、自分を取巻く世界の一部だと認識することで、相手を受入れやすくなります。

先住犬が極度の甘えん坊、またはヤキモチ焼きの場合

先住犬が極度の甘えん坊やヤキモチ焼きさんの場合は、新米犬に対するジェラシーも強まり、ストレスを感じやすくなります。抱っこやブラッシングなどの先住犬とのスキンシップを心がけ、直接触れる機会を増やしてあげましょう。

先住犬が他の犬とあまり関わりたがらないような性格の場合は、新米犬が入れない場所にケージを用意してパーソナルスペースを守ります。犬が自分を犬とあまり思っていない場合は、改めて上下関係をしつけ、飼主がリーダーシップをとることで問題行動が減少します。

先住犬と新しい犬の体格差が大きい場合

先住犬と新米犬の体格差が大きい場合は、ちょっとしたじゃれ合いでも大きな事故に発展する場合があります。とはいえ実際には大型・小型で仲よく暮らせているケースも多いですよね。

もちろん体格が近いほうが安心感はありますが、重要なのは相性と関係性です。じゃれ合いがヒートアップしそうなときはすぐに距離をとりますが、その後のスキンシップは体格に関係なく先住犬を優先してあげてください。小型犬が安心して過ごせるよう、別室スペースを確保できる環境も大切です。

先住犬が闘犬種の場合

先住犬が闘犬種の場合は、性格が穏やかな子でも多頭飼いには最新の注意が必要です。理想としてはドッグトレーナーに助言を受けながら、それぞれの性格・性質に合った顔合わせをおこないます。

ただし新米犬は、先住犬と同等の体格もしくは大きな体格であることが望ましいでしょう。万が一の事故が起こった際、チワワやポメラニアンのような小型犬は命に関わる怪我をしてしまう可能性があります。

ペットとして飼育していても、戦うために作られた闘犬種の気性は本質的に荒いものだと認識しましょう。絶対的な主従関係を築いたはずの飼主でさえも、完璧にはコントロールしづらいものなのです。

先住犬がシニア犬で後から子犬をお迎えする場合

先住犬がシニア犬で子犬をお迎えする場合は、大きく3つに分かれます。

  • シニア犬が子犬と関わる中で精神的に若返る
  • 子犬の挙動を一切気にせず、マイペースを貫く
  • 子犬に絡まれてストレスがたまってしまう

実際にはさらに細分化されますが、先住犬がどの状態に当てはまるかは気質や関係性によります。シニアと仔犬は「向く・向かない」で割り切れるものではありません。新米犬を迎えることが本当に先住犬のためになるのかを、冷静に考える必要があります。

迎え入れた際は、先住犬が疲れてしまっていないか飼主が細かく確認してあげましょう。子犬のフラストレーションは散歩や室内遊びで発散させ、先住犬に絡みづらい状態を維持するのも飼主の役割です。

先住犬のメンタルケアが第一。良好な共存関係を目指そう

今回は、多頭飼いをする際のポイントや注意点などを紹介しました。多頭飼いにおいてまず重要視するべきは、先住犬のメンタルケアです。先住犬のプライドを守ることで自己肯定感が維持され、新米犬にもポジティブなコミュニケーションをとりやすくなります。

犬の世界には順位付けがあります。飼主(と家族)がトップでその下が先住犬になれるよう、犬同士の関係性構築を正しくサポートしましょう。

新米犬が「自分はこのコミュニティの中で下の存在だ」と認識することは、悪いことでも不幸なことでもありません。犬同士に明確な序列が生まれることは、良好な関係性のために必要な要素なのです。

以下の記事では、猫を多頭飼いする際の注意点をまとめています。

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