まとめ
  • 8月は脱走・迷子になる犬が1年中で一番多い
  • 暑い時期には皮膚トラブルが増える
  • 熱中症は死亡率50%ともいわれる怖い病気
  • 涼しくなり始めた時期に、暑さの疲れが出やすい

暑い時期は人も外に出るのが億劫になりますよね。そうはいっても犬の散歩をサボるわけにもいかず、途方にくれたことのある人も多いのでは?

犬も散歩には行きたがるものの、外に出たらすぐにバテてしまった……なんて経験もあるかもしれません。

それもそのはず、環境省発行の「熱中症環境保健マニュアル2018」によると、外気温が32℃だった場合、幼児の身長・50cmの高さでは35℃以上、より地面に近い犬の場合、5cmの高さは36℃以上だったそうです。

猛暑の続く現状の日本の夏を乗り切るために、必要な対策と気をつけたいトラブルについて、獣医師の森先生に聞きました。

◆今回インタビューに答えてくれたのは

森 聖(もり さとる)

帯広畜産大学畜産学部獣医学科 を卒業し、その後修士課程を修了。
獣医師の知識を活かし、40年以上にわたり塩野義製薬ほかの企業にて、動物薬のほか医薬品・植物薬の毒性検査と安全性の管理を担当。2016年からは自身の持つ動物に関する知識を動物愛護活動に活かしたいと、動物保護活動を行う団体や、動物病院やペットショップの健康診断などを精力的に行っている。

暑い時期に気をつけたいトラブル

猛暑にあえぐのは人ばかりではありません。毛皮を着ている犬が暑さに弱いのは少し考えれば想像がつきますよね。

そんな暑い時期に増える特徴的なトラブルが以下の2つです。

  • 肉球のやけど
  • 迷子・脱走

猛暑日は日中のアスファルトの温度が60℃まで上がることもあります。人は60℃に1分間ふれ続けるとやけどができると言われています。アスファルトを裸足の状態で歩く犬の肉球が、簡単にやけどをしてしまうのも当たり前ですね。

森先生
森先生
夕方から散歩に行く人も多いですが、60℃まで温度の上がったアスファルトは、簡単には温度が下がりません。肉球のやけどを防ぐために、散歩の際にはアスファルトを手でさわり、温度確認をするようにしましょう。

ほかにも、なるべく草や土の上を歩かせるなど、暑い時期の散歩には対策が必要です。

また、年間で8月がもっとも犬の迷子数が増えるという調査結果が出ています。

夏には花火大会やお祭りの太鼓の音、急な天候の変化により雷が増えるなど、犬が驚く原因が多いことも理由でしょう。

愛犬を迷子にしないために、脱走対策は念入りにしておきましょう。

参考:迷子ペット.NET

暑い夏の時期にかかりやすい10の病気

暑い時期には、熱中症以外の病気のリスクも上がります。以下に、とくに気をつけたい病気を10種類あげました。

  • 熱中症
  • 夏バテ
  • 冷房病
  • 下痢
  • 食中毒
  • 皮膚炎(アトピー性皮膚炎)
  • 外耳炎
  • 膿皮症
  • フィラリア症(犬糸状症)
  • マダニ
森先生
森先生
アレルギー疾患の原因となるアレルゲンも、夏場は種類も量も多くなります。
草むらにはできるだけ入らないように注意し、マダニの対策をしましょう。

皮膚炎の際に見られる皮膚症状としては、以下のようなものがあります。

  • 痒み
  • 脱毛
  • 皮膚の赤み
  • ただれ
  • 湿疹皮膚がかたくなる
  • 皮膚がベタつく など

森先生
森先生
上記の症状に該当する場合、様子をみても治らない可能性があるため、早めの治療をおすすめします。

また「暑い時期に食欲が落ちるのはよくあること」と思い込まないことも大切です。

食欲の減退には夏バテや熱中症をはじめ、フィラリアなどの怖い病気が隠れていることも。自己診断で「大丈夫!」と思わずに、病院の受診を検討しましょう。

死亡率は50%とも言われる熱中症の危険

暑い時期の病気といえば熱中症を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

たかが熱中症と甘く考えていると、とても怖い病気なのが熱中症です。

ここでは森先生に熱中症の諸症状について聞いてみました。

森先生
森先生
初期症状としては、体温40℃以上。大きく口を開けてハァハァと呼吸が早くなり(パンティング)ます。

パンディングに加え、

・体温41℃以上
・ぐったりして元気がない
・眼や口の粘膜が充血する
・よだれが大量に出る

このような症状が出たら要注意です。

至急、病院へ連絡してください。

これ以上ひどくなると、動物病院を受診する熱中症の死亡率は50%以上といわれ、非常に怖い病気です。

愛犬の様子がおかしいと思ったら、すぐ病院に連絡しましょう。

【あわせて読む】

暑くなり始めは特に注意!犬の熱中症の症状とは?予防と対策も解説

暑い時期にやっておきたい獣医師おすすめの対策

快適な環境を作るために、普段から心がけておきたい暑い時期の対策にはどのようなものがあるのでしょうか?

暑い時期は温度管理と被毛管理に気をつけよう!

暑い時期に特に注意したいのは温度管理と被毛管理の2点だと森先生は話します。

森先生
森先生
直接日差しが当たらないようにサークルやケージを移動させ、いつでも愛犬が適度な涼をとれるように、ゆるくエアコンをかけておきましょう。基本的に冷房は入れておくこと。

皮膚や被毛のお手入れは、ブラシを軽くかけることを忘れずに。皮膚のマッサージ効果で、皮膚の血行を良くすることができます。ムダ毛・ゴミ・外部寄生虫・卵を除去する意味もあります。

犬にとって快適な環境とは

どのような環境にいることが犬にとっては快適なのでしょうか。

犬にとって快適な環境について森先生に聞いてみました。

森先生
森先生
室温25℃。エアコンの設定温度は26~28℃くらいで、涼しい場所とそうではない場所を犬が自由に行き来できるようにしましょう。

家を留守にする場合は、直接日差しが当たらないようにサークルやケージを移動させ、ゆるくエアコンをかけたままにして、外出するようにしてください。

いつでも水が飲めるように、普段より多めに設置することも忘れないようにしましょう。

ここで注意が必要なのは、室内を冷やしすぎること。温度差が大きくなると体調を崩す場合があります。設定温度には気をつけましょう。

屋外で犬を飼っている場合は特に注意が必要です。夏場はコンクリートの表面が高温になります。日陰を作ることや風通しをよくすること、床にスノコを敷くなどの工夫が必要です。

屋外の場合は特に、水はいつでも自由に飲める環境が不可欠です。命に関わるので、直射日光が当たって水が蒸発してしまった・熱くなって飲めない、なんてことがないように注意しましょう。水浴びできるような環境も作れるといいですね。

夏から秋へ季節の変わり目に多い病気・症状と原因を解説

夏の暑さで体力が消耗する・内臓に疲労が溜まる・冷房病で体がだるい、などは人間だけでなく、犬にも同じようなことが体内で起きていると考えられます。

この暑さの疲れが犬の体にどのような症状をもたらすのかを森先生に聞きました。

食欲不振

胃腸が疲れ、機能が低下し、消化力が低下します。夏に水を飲みすぎて、消化液が薄くなっている状態が続き、腸の分解・吸収力が低下するためです。

また、夏の間の運動不足・栄養不足などで腸の活動が低下し、食欲がなくなることもあります。

足腰が弱る

暑い時期は、散歩の時間や回数が少なくなりがちです。犬の筋肉も人と同じで、使わないとすぐに衰えます。

犬の筋肉はタンパク質と脂質が不足すると衰えるため、食欲不振から夏の間に足腰の筋肉が弱ったり衰える犬が増える傾向があります。

食欲不振に加え、質が悪いタンパク質が多いフード(ダイエット用・シニア用フード含む)や療法食では、筋肉をつくる良質なタンパク質が不足してしまいます。特にトウモロコシや大豆や主原料のフードを使っている場合は注意が必要です。

下痢

1日の気温差が7度以上になると犬は下痢をしやすくなるといわれています。季節の変わり目は日によっての気温差も大きいので、下痢をしやすい時期といえます。

肝機能低下

食欲不振や夏バテで、摂取カロリー不足が続く夏。体は不足したカロリーを補うために、体脂肪のほか、筋肉を分解するようになります。筋肉のタンパク質は肝臓でカロリーに変えるため、肝臓に大きな負担がかかり肝機能が低下するといわれています。

 

このように、夏の猛暑が過ぎたからといって、すぐに安心はできないことを森先生は指摘してくれました。

猛暑が過ぎた時期だからこそ、愛犬の体への配慮を怠らないようにしましょう。

涼しくなり始めこそ注意が必要!愛犬の体調管理

近年の日本の猛暑は、人間も犬も乗り切るだけでも大変です。気温が下がり始め、ほっと一息というころに、猛暑の疲れが一気に出た……なんて経験はありませんか?

それは犬にも同じことがいえるのです。

暑い時期の体調管理はもちろん、気温が落ち着き始めた時期こそ、いつもよりも注意深く愛犬の体調に気をつける必要があることを森先生は教えてくれました。

涼しくなったからと油断せず、夏の疲れの出やすい時期こそ、愛犬の体調管理に気を配り、楽しい愛犬ライフを送りましょう。

 

参考文献

1. 熱中症環境保健マニュアル2018 

2. 迷子ペット.NET