まとめ
  • 歯が伸び続ける動物は、歯切りが必要になる場合がある
  • 歯の伸びすぎを放っておくと、あごの骨が溶けたり鼻に刺さったりすることも
  • 犬・猫・小動物ともに、普段からできる予防方法を徹底することが大切
  • 自己判断せずに獣医師に相談しよう

同じ哺乳類でも、犬・猫・ハムスター・ウサギなどはそれぞれ別の特性を持っています。中でもウサギや齧歯類特有の体の特徴といえば、歯が伸び続けることです。犬や猫しか飼育したことがない人にとっては驚きの生態ですよね。

一部の小動物は歯が伸び続けると、歯切りと呼ばれる処置をする必要があります。今回は、歯切りの意味や必要性、普段からできる予防法などを紹介します。動物の生態によって異なる注意点を学び、知識を深めていきましょう。

◆この記事を監修してくださった獣医師プロフィール

ttm 医師
岩手大学で動物の病態診断学を学び、2015年から獣医師としての実績があり、動物園獣医師として活躍中。動物の病態に精通し、対応可能動物は多岐にわたる。

歯切りとはどんな処置?

歯切りとは、何らかの事情で動物の歯を切断する場合の処置を指します。

人間の歯はある程度の長さまで伸びれば止まりますが、動物によっては際限なく伸び続ける種類もいます。歯は一度伸びすぎると薬や食事では治せないため、健康的な生活ができるレベルまで歯切りを行う必要があるのです。

歯切りは、一般的に動物病院で行われる処置です。

歯の切断の際、麻酔をかけるか無麻酔かはケースバイケースです。特にウサギや一部の齧歯類の前歯のみの切断の場合は、無麻酔で行うこともあります。最初は自己判断せず、まずは獣医師の判断を仰ぐことが大切です。

歯切りが必要な動物の特徴

ここでは、歯切りが必要になる動物の特徴を紹介します。歯が伸び続ける特徴を持つ動物を飼育する場合、歯切りの必要が生じることがあります。中でもペットとして育てられやすい3種類に絞って紹介していきますので、参考にしてください。

ウサギ・モルモットの歯の伸び方

ウサギやモルモットは、常に歯が伸び続ける生き物です。歯冠部(歯の見える部分)が口の中に伸びるだけではなく、見えない歯根(歯の根元の部分)も歯茎の内部からあごの骨に向かって伸びていきます。

歯は、切歯(前歯)・臼歯(奥歯)共に一生伸び続けます。歯が伸び過ぎて噛み合わせが悪くなることを「不正咬合(ふせいこうごう)」と呼びます。

切歯不正咬合・臼歯不正咬合は、どちらかのみがおこるのではなく、どちらかがきっかけで切歯・臼歯共に不正咬合となり、切歯及び臼歯の伸び過ぎにつながります。

歯根が伸びすぎると、あごの骨に炎症が生じてあごの骨が溶け、歯が抜けてしまったりすることも。

ハムスターの歯の伸び方

ハムスターはウサギやモルモットとは異なり、臼歯は伸びません。前歯のみが伸び続け、必要以上に長くなった前歯はクルンと内側にカールしていきます。伸び続けた歯は上あごを突き抜けて、鼻の中に入ってしまうこともあります。

ハムスターの口は小さく、外から見るだけでは伸びすぎに気づけないケースも。何かしらの理由で前歯の噛み合わせが悪くなると、歯同士が正常な位置を保てなくなりどんどん伸びてしまいます。

そのためハムスターの飼育では、定期的に口の中の状態をチェックすることが大切です。とはいえ、大人しく口の中を見せてくれる子は少ないものです。

歯が伸びすぎると食事や消化に変化が現れやすいため「ちゃんとごはんを食べているか」や「正常なウンチが出ているか」「ウンチの数は変わっていないか」「体重は減っていないか」などのサインをチェックし、歯の異常に早期に気づけるようにしていきましょう。

歯が伸びすぎてしまう原因

ここでは、歯が伸びすぎてしまうおもな原因を紹介します。動物の種類によって歯の伸び方には違いがありますが、今回はウサギ・モルモット・ハムスターなどの比較的人気な小動物に絞って解説していきますので、ぜひ参考にしてください。

野菜やペレットを主食にしている

ウサギやモルモットは、本来繊維質の多い草類を主食にしてます。ペットとして飼育している場合でも、牧草を用意していれば大きな問題にはなりません。しかし中には、野菜やペレットを主食にしているケースも少なからずあります。

ウサギやモルモットは、繊維質の多い草類を、上下のあごをすり合わせるように水平方向に動かして食べることで臼歯を摩耗させ、すり減らして丁度いい長さにしています。そのため門歯の縦噛み(人と同じような噛み方)のみで咀嚼して飲み込めてしまう野菜やペレットばかりを与えられていると、臼歯を摩耗させる機会が足りず臼歯が伸び過ぎます。臼歯の伸び過ぎは門歯の伸び過ぎにもつながります。

先天的に噛み合わせが悪い(先天性不正咬合)

ネザーランド・ドワーフなどの一部のウサギの品種では、先天的に下あごが上あごよりもやや長い個体が生まれことがあります。見た目ではほとんどわからない程度の噛み合わせの悪さですが、成長と共に切歯の伸び過ぎにつながります。

モルモットはウサギほど品種改良がされてないため、遺伝による先天的な不正咬合は報告されていません。しかし、実際にたくさんのモルモットを見ていると、生まれつき噛み合わせの悪い個体も少なくありません

硬いもののかじり過ぎや事故(後天性不正咬合)

ウサギやハムスターでは、ケージの金網など硬すぎるものを門歯で噛み過ぎることで、門歯が傷つくことがあります。モルモットでは飼主が誤って落としてしまい、門歯が折れる事故も多いです。

これら門歯のトラブルは後天的に門歯の不正咬合をひきおこし、門歯だけでなく臼歯の伸び過ぎにつながるのです。

歯切りが必要な3つのシーン

ここでは、歯切りが必要なシーンを3つ紹介します。基本的には自己判断をせずに、獣医師に相談しましょう。特に初めてペットを飼育している人は、まずはプロと情報を共有することが大切です。

歯が長すぎて歯茎や唇に刺さっている

おもに歯切りが必要になる動物は、ウサギをはじめとする小動物や齧歯類です。何らかの原因で歯が伸びすぎてしまった場合、ごはんが上手に食べられません。よだれが増えたり、呼吸器障害につながることもあります。

その状態を放置すると歯茎や唇に歯が刺さるというところまで進んでしまうため、その前に食欲がない・よだれが増えた・呼吸がおかしい、というような症状を感じたら、動物病院を受診しましょう。

症状を見逃し、進行してしまうと歯茎や唇に歯がぶつかり、痛みを伴い口内の炎症を引き起こすことも。

これらの炎症は歯だけにとどまらず、目の下にも波及して膿瘍(膿の塊)を作ります。そうなると目が突出したり、目の下の皮膚に穴が開くこともあります。炎症が涙が流れる道を塞いでしまうと、常に涙目となり、目の周りの皮膚まで炎症を起こすこともあります。

噛み癖が直らず、人や動物にけがをさせてしまった(犬のケース)

犬の場合は、噛み癖が直らずに人や動物に大きなけがをさせてしまったときや、けがをさせる危険性が高いとき、ごく稀に犬歯の切断が検討されることがあります。

犬の歯切りでは安全性の確保が目的である場合が多いため、切った歯は奥歯のように平にする処置が行われます。

ただし、人の都合による歯の切断は、動物福祉に大きく反する処置です。アメリカでは、全米獣医師会が明確に反対の声明を出しています。ヨーロッパでも同様に廃絶が推奨されています。

日本では、各獣医師の判断に任されている獣医療行為ですが、欧米の方針と同様に動物福祉の観点から積極的に行う獣医師は多くありません。

歯を切断しても、犬の噛み癖そのものが矯正されることはありません。歯切りを検討する前に、動物病院の行動診療科や、ドッグトレーナーなどに必ず相談してください。

事故やけがで歯が折れてしまった

事故やけがで歯が折れてしまった場合に、歯切りの処置を行うことがあります。歯が折れると歯の先端が尖り、口内を傷つける可能性があるためです。またウサギや齧歯類の場合は噛み合わせが悪くなり、さらなる伸びすぎを誘発するケースもあります。

例えばハムスターがケージを登っている途中に落ちたり、猫がキャットタワーからの着地に失敗したりなどがあげられます。事故による歯の破損はすべてのペットにあり得るトラブルといえるでしょう。

歯切りを行う際の処置方法

ここでは、小動物の歯切りを行う際の処置方法を紹介します。処置方法にはいくつか方法があり、動物の状態や動物病院によっても変わります。事前に最寄りの病院の処置方法も調べておきましょう。

麻酔をして手術する場合

麻酔をして手術する場合は、伸び過ぎた歯をマイクロエンジンにダイヤモンドディスクやダイヤモンドバーなどを取り付けて切断することが多いです。専門の切歯用カッターや臼歯用カッターを使用することもあります。

動物のけがを防止するため、奥歯の処置では麻酔が必須です。前歯のみの場合も、動物の性格などを鑑みて、獣医師の判断で麻酔を用います。

麻酔なしで削る場合

前歯のみの処置の場合は、麻酔なしで切断するケースもあります。ウサギでは専門の切歯カッターやダイヤモンドバーを使用する場合が多く、ハムスターではウサギ用のニッパを用いることも。特にウサギの前歯の処置は、無麻酔で行われることもあります。

歯切りを避けるために…普段からできる予防法

ここでは、歯切りを避けるために普段からできる予防方法を紹介します。歯切りは動物にとって大きなストレスになるものです。「なったらどうしよう」ではなく「させない」を前提に、ペットの安全と健康を守っていきましょう。

【小動物】適切なごはんを中心に与える

小動物の歯切りを防止するためには、歯を適切に摩耗させるために適切なごはんを与えてください。ウサギやモルモットの主食は乾草です。ペレットも必要ですが、大人のウサギでは理想体重の1.5%まで、大人のモルモットでは1日10~20g程度が目安です。

特にペレット中心の食生活になっている子は要注意です。ウサギでは体重の1.5%を超えたペレット量は、乾草の摂取を減少させ、歯の伸び過ぎにつながることが指摘されています。

【犬】噛み癖のしつけを徹底する

しつけ不足による犬の噛み癖は、飼主の努力や工夫で予防できます。自分でしつけることが難しい場合は、ドッグトレーナーやしつけ教室を活用しましょう。犬にとって犬歯はコミュニケーションツールの一つです。しつけ不足による歯切りは、けが人を出す前の最終手段と考えてください。

【動物全般】生活の安全性を確保し、毎日の様子を観察する

犬・猫・小動物を含め、生活の中の事故は歯のトラブルの原因になります。ペットに適した高低差が守られているかや、滑ったり転んだりしにくい環境になっているかなど、安全性の確保に努めましょう。

金網のかじり過ぎにも気をつけましょう。ウサギの場合、へちま製や乾草などでできたおもちゃを入れることで金網のかじり過ぎを防止できることもあります。硬いかじり木は、ウサギやモルモットには歯を傷つけたり、飲み込んでしまう事故につながることがあるため(特にウサギ)おすすめしません。

また毎日しっかりとスキンシップをとることで、歯の異常を察知できます。ふれあいが難しい場合は、食事や毛づくろいなどの様子をよく観察してあげてください。

歯切りは動物にとって大きなストレス。日々の中で伸びすぎを予防しよう

今回は、ペットの歯切りの意味や必要性、予防方法などを紹介しました。

同じ哺乳類でも、生態には大きな違いがあるものですよね。すべての動物にはそれぞれのルーツがあり、生活や環境に従って、歯も独自の進化を遂げてきました。

動物の生態を理解することは、事故やトラブルの防止にもつながります。ペットと健康で安全な日々を過ごすために、飼育している生き物の生態について改めて学んでみるのもよいでしょう。

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