まとめ
  • 介護のゴールは毎日を愛犬と一緒に楽しく過ごすこと
  • 犬は共感動物なので、飼主が明るくしていることが愛犬の元気につながる
  • 介護は一人で抱え込まず、適切に人の手を借りることを考える
  • 介護に完璧はないし、完璧を求めない

年を取れば体の自由が利かなくなるのは人も犬も同じです。そのとき人に介護が必要になるように、犬にも介護が必要になることがあります。

毎日を共に過ごす愛犬にも、いつか介護が必要になるときがくるかもしれません。

そのときに何を準備して、どんな心構えが必要なのか、獣医師の酒井先生に解説してもらいました。また、実際に犬の介護をした人の体験談も紹介するので、今後の参考にしてください。

◆今回インタビューに答えてくれたのは

獣医師:酒井和紀(さかい あき)先生

TOMOどうぶつ病院 (ともどうぶつびょういん)

東京都内の小動物病院において長年一般診療を担当、あわせてどうぶつ眼科専門病院における研修や2次診療施設での眼科診療を担当。現在は複数の病院で一般診療と眼科診療を主に担当する、柴犬と猫をこよなく愛する獣医師。

愛犬に介護が必要になったら?

年齢を重ねるごとに、少しずつできることが減ってきたり、動きが緩慢になってくることがあります。昨日までできたことが今日はできなかったり、持病が悪化したりして、愛犬は人が手を貸してあげないと生活ができなくなることも。

実際にそうなってしまうとなかなか冷静な判断ができなかったり、後悔が残ってしまうことがあります。そうなる前に必要な情報を集め、できるだけ犬にも人にも無理のない介護ライフが送れるように準備しておきましょう。

介護のゴールは愛犬と一緒に楽しい毎日を送ること

介護に追われて飼主が疲弊してしまうのが、愛犬にとっても一番よくないと酒井先生は話します。

酒井先生
酒井先生

犬は共感動物です。飼主様の顔をいつも見ています飼主様がハッピーでいることで、愛犬もハッピーになれることを忘れないでほしいと思います。

介護の目的はあくまでも愛犬と楽しく毎日を過ごすこと。

昨日できたことが今日できないことに一喜一憂していては続きません。

年を重ねれば少しずつ悪くなるのが当たり前、現状維持ができたらよしとしましょう。

成果に固執せず、今日を楽しく過ごせたらそれでいい、そのくらい気楽に、そして飼主様が笑顔でいられることが大切です。

一生懸命な人ほど、頑張ったことに結果を求めがちです。結果に固執せず、人も犬も笑顔で楽しめる毎日であることを優先しましょう。

犬は飼主が笑顔でいることで元気になれる動物です。

愛犬と一緒にいる時間を楽しむこと。それを忘れないでほしいと酒井先生は言います。

人を頼るという選択肢

全てを自分でやろうとすると、どうしても限界があるのは仕方のないことです。そんな時に考えてほしいのは、介護施設や預かりをしてくれる病院など、人の手を借りること。

酒井先生
酒井先生

大切な愛犬の介護ですので、一生懸命になる飼主様がほとんどです。だからこそ、頼れるものは頼るという選択もしてほしいなと思います。

日中だけ病院に預かってもらったり、愛犬用のデイサービスを利用したり、一時預かりをお願いするのも方法です。

誰かに任せることで罪悪感を感じる飼主様も中にはいらっしゃいますが、プロの手を借りることで愛犬に良い刺激をもたらす場合もあります。

何より、飼主様が頼れる場所を見つけることで、介護に前向きになれることが一番大切なのではないでしょうか。

かかりつけの病院は一時預かりをしてくれるのか、犬の介護ホームは近くにあるか、デイサービスをしてくれる施設はないか、事前に調べておくといざという時に助けられることもあるでしょう。

全てを自分でやらなくてもいい、人に頼れるところは頼る。その気持ちを持つことも大切です。

介護に必要なモノ・コト

実際の介護は、治療法・介護法はかなり細分化されるため、ほぼ個別対応になると酒井先生は言います。その中でも共通して必要になることや、共通して注意してほしいことについて解説してもらいました。

家の中の準備

室内飼いの場合、愛犬に介護が必要になったら、家の中も変える必要が出てきます。

どんなところに注意すればいいのでしょうか。

酒井先生
酒井先生

それぞれの症状や状態で日々変わってくるものだとは思いますが、基本的なところでは

  • 床をすべりにくい素材のものにする
  • 段差を越えるのが難しくなるので、愛犬の行動範囲をできるだけフラットな状態にする(トイレ・ベッドなど)
  • 転んだりしてもぶつからないように床にものを置かない

足回りはだんだん弱ってくるので、気をつけておきましょう。

症状によって変わる必要な対応

介護の内容は日々変わっていくと酒井先生は話します。それにはどのように対応していけばいいのでしょうか。

酒井先生
酒井先生

必要な介護の内容は日々変わっていきます。年齢を重ねれば重ねるほど、教科書通りの治療が愛犬にとってベストな治療や対応ではなくなることも。

シニア期には複数の病気を患うことがほとんどで、1つの病気の対処法がもう一つの病気の対処法と相反することも珍しいことではありません。

そのため、病院ではそれぞれの症状に合わせてバランスを取りながら治療を進めることになります。

飼主様は獣医師と相談しながら、愛犬の状況に合わせて介護をしてもらえたらと思います。

介護には獣医師との連携が大切だということがよくわかりました。

日頃からかかりつけの病院と連絡をとるようにしておきましょう。

情報ツールを有効利用するために

近年では情報収集にネットやSNSを利用する人も多いと思います。

酒井先生はネットの利用はとても重要だとしつつも、その利用には注意も必要だと話します。

酒井先生
酒井先生

SNSや掲示板などで治療方法や症状について相談している人を見かけます。

介護の情報や、あくまでも経験談として情報共有する意味では大切な一面もありますが、治療方法に対しての回答にはエビデンスのない、個々の体験を元にした答えが多いのがとても気になります。

病気や介護の内容は、1頭1頭それぞれの病歴・投薬歴・性格・飼主様の意向など、さまざまな要素によって全く違う答えになります。

SNSを参考にすることは否定しませんが、最終的にはかかりつけの獣医師に相談してほしいと思います。

これからシニア期を迎える愛犬の飼主にとっては今後の心構えを学ぶ場所として、すでに介護をしている飼主にとっては心強い仲間を得る場所として、SNSなどの情報ツールを利用することはとても意味のあることでしょう。

しかしそこに書かれていること全てが正しい情報とは限りません。愛犬にとって適切ではない情報も中には存在します。気になる情報がある場合には、書かれていることを鵜呑みにするのではなく、かかりつけの獣医師に相談するようにしましょう。

実際に犬を介護して看取ったKさんの体験談

愛犬の介護といわれても、実際にはどんなことが起こったり、どのくらいのお金がかかるのか想像がつかない人も多いのではないでしょうか。

ここでは実際に愛犬を介護したKさんの体験を紹介します。

愛犬のプロフィール

名  前:フィードくん(愛称:ふぃさん)

犬  種:ヨークシャーテリア

体  重:3.5kg

生年月日:2002年10月8日

年  齢:17歳3ヶ月

愛犬の病歴

10歳・膵炎を発症。

12歳・頚椎ヘルニアのため右半身麻痺になるが、リハビリで歩けるようになる

14歳・ナックリングになり、起立困難に。室内で這う生活になる

15歳・心臓の病気(弁膜症)を発症、自力移動が困難に

16歳・肝機能が一部低下 ステロイドの投薬を開始

16歳・誤嚥性肺炎や気管支炎からの呼吸困難を頻発し、酸素濃縮機を自宅に導入

17歳・永眠

介護当時の愛犬の状態

介護の状況についてKさんに話してもらいました。

Kさん
Kさん

最初に膵炎になったのは、私の父がうっかりカルビ肉をふぃさんにあげてしまったせいじゃないかと思うんですよね(苦笑)。

1回だけなんですが、その数日後に具合が悪くなってしまったので。

一度老犬用フードに変えて膀胱に結石ができ、手術になったこともあります。

頚椎ヘルニアになったあとは、かかりつけの病院の紹介で、リハビリのできる医療センターに入院し、退院したあとは週1回1時間ほどかけてリハビリに通っていました。

おかげで歩けるようになったんですが、そのあとナックリングになって歩くのが難しくなってしまって。

ナックリングを診ていただいた先生とのお話で、リハビリがふぃさんに負担になっていることに気づいてリハビリをやめてゆっくり過ごすことを選択しました。

お散歩が大好きな子だったので、そのころから朝、抱っこしてお散歩に行くようになりました。

自力では歩けなくても、お散歩の習慣のある子は外出を喜ぶようです。無理のない範囲で、一緒に外出が楽しめたのは良かったですね。

Kさん
Kさん

公園に連れていくと必ず昔からの犬仲間にも会えるので、社交性のあるふぃさんが喜んでくれて。楽しかったようです。

私としても犬仲間からの情報は参考になりました。犬の飼主とのふれあいや、犬同士のふれあいは不可欠だなと思います。

犬仲間とのおしゃべりでKさんも息抜きになり、飼主も愛犬も楽しめる時間は大切だったとKさんは振り返ります。

食事やトイレはどうしていたのでしょう?

Tierコラム編集部
Tierコラム編集部

Kさん
Kさん
食事は療養食で、初めはふやかしたドライフードと缶詰を順番に。薬を混ぜたりしてあげていて、最終的には手で食べさせていました。吐き出してしまうので体に負担にならないように注意してあげていました。

トイレはお散歩の時にさせるようにしていましたが、自力で行けなくなってからは常にオムツで、教えてくれるときは抱っこして介助していました。

Kさんの生活はどう変わった?

体調が悪くなると、お留守番も長くはさせられません。そんな時はどうしていたのでしょうか?

Kさん
Kさん

慢性膵炎の時は、出社時間をずらしたりして、お留守番の時間は6時間くらい。仕事は週休3日にして、仕事中は見守りカメラでときどき様子を見ていました。

近くに信頼できるペットホテルがあったため、まれに預けることもありました。

頸椎ヘルニアになってからは、留守番時に辛くないようにケージ内にペットシーツを養生テープで固定してみたり、綿毛布を使ったり、気をつけていました。

介護レベルが上がるとそれにあわせて工夫をしていましたが、ふぃさんには負担だったと思います。

介護状態になってからはなるべく夜の予定なども入れないようにして、どうしてもの時はお薬や食事を与えて、眠らせてから行ったこともあります。でも、ほとんど出かけることはなかったです。

お酒が好きだったというKさん。ふぃさんの介護をするようになってからは飲み会などのお誘いも極力断っていたそうです。

ペット保険にも入っていたそうですが、亡くなるまでの1年間、総額で90万円以上かかったと話してくれました。

今振り返ってみて

当時は一生懸命でやれることはなんでもやらなければと思っていたというKさん。

今当時を振り返ってみるといろいろ考えることがあるといいます。

Kさん
Kさん

たまたまお世話になっていた病院が先端医療を扱っていたこともあって、当時は勧められるままに治療できることはなんでもやっていました。

今考えても、私にできることは全てやったと思います。

ただ、ふぃさんの身になって考えると、本当にそれが正しかったのかな、と思うことがあります。

最期までふぃさんを頑張らせ過ぎたのではないか、もっと早くに楽にしてあげたほうが良かったのではないか、そう考えると悲しくなることがありますね。

文章で書くと悲惨な印象を受けるかもしれませんが、私もふぃさんも、当時のことを写真を見返して思い出してみると、楽しく過ごせていたなと思います。

ふぃさんの楽しそうな写真を見ると「飼主が笑顔でいれば犬は幸せを感じられる」という酒井先生の言葉通りなのだなと思いますね。

何をしてもしなくても、愛犬との別れはつらく、納得できることはないのかもしれません。

愛犬にはできるだけ長生きしてほしいと考えるのは、飼主としては当たり前の気持ちです。そのためには何でもしてあげたいと思う気持ちもよくわかります。

それが結果的に愛犬を苦しめたのでは?と後から考えてしまう気持ちも痛いほどわかります。

納得できない想いや後悔を少しでも軽減したり、ペットロスを防ぐためにも、介護が必要になる前に自分と愛犬にとっての介護のあり方について、考えておくことも必要なのではないでしょうか。

どんな犬も、飼主の笑顔が何より元気の源になることを忘れずに!

動物と過ごす毎日は楽しいことばかりではありません。それでもその一瞬一瞬が何ものにも代え難い幸せな時間です。

まだ元気だからもっと先でも……と思いがちですが、いつか来るときのために、愛犬が元気なうちから、できる準備をしておきましょう。

 

以下の記事では、老犬・老猫を介護してくれる、ホームやデイサービスをご紹介しています。自分一人の力だけでなく、時には他の人を頼ることも必要です。ぜひ参考にしてください。

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