まとめ
  • 基本的には猫に肛門絞りは必要ない
  • 肥満になると肛門腺の分泌物が溜まりやすくなる
  • 猫の肛門嚢炎は動物病院での処置が必要
  • 猫の肛門絞りは動物病院での処置が基本

猫の体にある「肛門腺」という器官を知っていますか?犬の肛門腺と比べて、猫の肛門腺はあまり知られていないかもしれません。

 

実は「猫が肛門周囲をしきりに舐める」「猫の尻尾がいつもと違う位置にある」などの行動が見られたときは肛門腺にトラブルがあるケースがあります。

「でも、猫の肛門絞りって自分でしていいの?」「病気のサインを知りたい」

 

今回はそんな疑問を解決するために、猫の肛門絞りについて現役獣医師ライターが解説します。肛門腺のトラブルのときに猫がみせるサインや、肛門腺を健康に保つために飼主が気をつけることについてもお伝えします。

◆この記事を監修・執筆してくださった獣医師プロフィール

ttm 医師

岩手大学で動物の病態診断学を学び、獣医師として7年の実績があり、動物園獣医師として活躍中。動物の病態に精通し、対応可能動物は多岐にわたる。

肛門腺とはなに?猫の肛門腺の役割は?

はじめに、肛門腺そのものや役割について解説します。

肛門腺(こうもんせん)とは?

肛門腺とは肛門嚢(こうもんのう)とも言い、猫や犬の肛門に左右対称にある袋状の器官です。体の内側にあるため外からは見ることはできませんが、お尻の穴を中心に肛門を時計に見立てると、4時と8時の方向あたりにそれぞれひとつずつあります。

肛門腺では黄褐色や茶色の強い臭いのする分泌物を分泌します。

肛門腺の役割は?

犬の場合は、肛門腺からの分泌物によって相手の性別などの情報を知ることができます。一方で猫は分泌物によって他個体と情報交換をすることはあまりありません。

 

猫の肛門腺からの分泌物の役割は、スカンクと同様に身を守るためのひとつの手段ではないかと言われています。猫はスカンクのように攻撃的な分泌ができるわけではありませんが、強い恐怖やストレスを感じると、肛門腺から分泌物が分泌されることがあります。

参考:PetMD

猫の肛門絞りはするべき?よくあるトラブルと病院に行くべきサイン

猫の肛門腺は絞る必要があるのか、肛門腺のトラブルで病院を受診すべき状態はどのように見分ければ良いのかを解説します。

猫は犬のように日常的な肛門腺のケアは必要ない

猫では通常、ウンチが肛門腺の分泌物をすべて押し出します。そのため飼主が絞る必要はありません。

 

しかし、なんらかの原因で肛門腺に分泌物が残ると、肛門腺の中に溜まった分泌物の粘性が高まり、だんだんと分泌物が排泄されにくくなります。こうして溜まった分泌物の中で細菌が増えると「肛門嚢炎(こうもんのうえん)」という病気になります。

 

猫の肛門嚢炎は動物病院での処置が必要です。普通であれば猫の肛門絞りは必要ありませんが、いちど肛門嚢炎になると、獣医師から定期的に自宅で肛門腺を絞るケアを指示されることもあります。

肛門腺のトラブルと病院に連れて行くべき猫のサイン

肛門嚢炎など、肛門腺にトラブルがある時は、猫がなんらかのサインを出すことが多いです。猫のサインに早めに気づいて受診しましょう。受診すべき猫のサインには次のようなものがあげられます。

1.猫のお尻が異常に臭い

嗅いだことのないような臭さを感じた場合は肛門腺にトラブルがあり、分泌物が溜まっている可能性があります。動物病院で排出してもらう必要があります。

2.肛門をしきりに舐めたり噛んだりする

猫が肛門をしきりに気にする場合は肛門腺にトラブルがある可能性があります。

3.肛門周囲の毛が抜けたり、絡まっている

肛門嚢炎になると、分泌物によって肛門周囲の毛が抜けたり絡み合ってべたべたになることがあります。

4.ウンチをする時ためらう

ウンチの姿勢をとってもためらったり、やめてしまうなどの場合は肛門腺のトラブルで痛みを感じている可能性があります。

5.尻尾をいつもと違う位置に保持する

肛門周囲の違和感や痛みで尻尾をいつもとは違う位置に保持することがあります。

犬では、肛門腺の分泌物が溜まってくると、お尻を床にこすりつけながら歩く独特の姿勢をとることが多いですが、この行動は猫では滅多にみられません。

健康な肛門腺のために飼い主が気をつけるべき3つこと

猫の肛門腺は飼主のこまやかな配慮によって健康を保つことができます。

1.下痢や軟便、便秘のない良いウンチを目指す

下痢や軟便、便秘が続くと、分泌物がウンチと一緒に正常に排泄されず、溜まることがあります。普段から良いウンチをしない猫は、ストレスが溜まっていたり、フードが合わない可能性があります。フードなどを見直しましょう。

2.肥満に注意

肥満の猫の場合、脂肪が邪魔をしてウンチが肛門腺をきちんと圧迫できずに分泌物が溜まることがあります。肛門腺のトラブル以外にも、猫の肥満は色々な病気の原因となります。肥満気味の猫はダイエットをしましょう。

3.生まれつき分泌物がたまりやすい猫も

猫の中には、先天的に分泌物が溜まりやすい猫もいます。定期的に動物病院で分泌物を除去してもらうほか、獣医師の判断によっては、手術によって肛門腺そのものを除去する治療を提案されることもあるでしょう。

猫の肛門絞りのやり方は?必要な場合は動物病院へ

猫の肛門絞りのやり方を解説します。ただし、獣医師からの指示がない限り飼主が絞る必要はありません

肛門絞りの方法

肛門腺を絞るときは、利き手でない方の手で猫の尻尾を上に持ち挙げます。利き手の親指と人差し指を、肛門の4時と8時の方向に置き、下から上へ押し上げるように絞ります。

猫は尻尾や肛門を触られることを非常に嫌がります。おさえつけて肛門腺を絞ろうとすると、猫や飼主に危険がおよびます。無理せず動物病院を頼りましょう。

動物病院での処置が基本

上では肛門腺絞りの方法をお伝えしましたが、獣医師からの指示がない限り、猫の肛門腺を飼主が絞るのはおすすめできません。猫に苦痛を与える可能性が高く、肛門腺のトラブルを悪化させる可能性もあります。

肛門腺のトラブルのサインを見つけたら、まずは動物病院を受診しましょう。動物病院では、粘度が高くなって排泄しづらくなった分泌物を生理食塩水や消毒薬などを使って柔らかくするなど、猫に苦痛のない方法で処置を行えます。

良いウンチと健康的な体重で肛門腺の健康を守ろう

猫の肛門腺の健康のためには、毎日の健康的なウンチと、肥満にさせないことが一番大切です。これらは猫を飼育するうえで、最も基本的な健康管理ですね。
異変に早めに気づくことも重要です。ふだんから猫の様子をしっかり観察し、肛門の臭いや肛門をしきりに舐めるなどの行動の異変に気づいたらすぐに動物病院に相談しましょう。