この記事は2024年7月時点の内容です。

まとめ
  • ミズオオトカゲは日本ではサルバトールモニターとも呼ばれている
  • 東南アジアに多く、タイのルンピニー公園にたくさん生息している
  • 木登りも潜水も得意
  • 腐肉も食べ、食事は基本丸呑み
  • とても平和主義な生き物だけれど、タイでは不人気

ミズオオトカゲ(サルバトールモニター)という動物をご存じでしょうか?ミズオオトカゲは恐竜のようなカッコイイ見た目の爬虫類です。

爬虫類愛好家の中では人気のペットの一種でもあります。

今回はタイ在住で獣医師の筆者が、野生でしか見ることのできない、ワイルドだけれど平和主義者なミズオオトカゲの魅力を紹介します。

ミズオオトカゲってどんな動物?

ミズオオトカゲは爬虫類網有鱗目オオトカゲ科オオトカゲ属のトカゲです。東南アジアなどに生息しています。

学名はVaranus salvatorなので、日本ではサルバトールモニターと呼ばれることも多いです。

聖地!タイのルンピニ―公園

タイのバンコクにあるルンピニー公園には、数百頭ものミズオオトカゲが生息しています。

緑に囲まれゆっくりと観察できるため、ミズオオトカゲ好きの「聖地」です。今回のコラムの写真も主にこの公園で撮影しました。

泳ぎも木登りも得意。昼寝は仲間と一緒にすることも

その名の通り、ミズオオトカゲは泳ぎの達人です。手足を体にぴたりとつけ、体を流線形に保ち、尾でぐんぐん進みます

どこかで魚が跳ねると、すっと目つきが変わり狩りの体勢をとります。潜水も得意で、水中に消えると次にいつ顔を出すかわかりません

 

木にもするすると登ります。見上げてもなかなか見つからないほど高くまで登るため、落ちてこないか心配になることも。

 

個人的に一番好きなのは寝ているところです。寝ている動物は可愛いものですが、怪獣のような顔なのに自分の腕を枕にしてすやすや寝るミズオオトカゲは格別です。

 

活動中は単独行動のミズオオトカゲですが、昼寝するときは、なんとなく集まり集団で眠る姿も微笑ましいものです。

ミズオオトカゲの「食」と「歯」と「爪」

ミズオオトカゲの食事風景は、いつ見ても圧巻の「丸のみ」です。大きな魚も数秒でのみこんでしまいます。

顔つきからワニのような歯を持っていると思われがちですが、歯はとても小さく、噛むのは苦手。爪は鉤(かぎ)状で大きく鋭く、その爪で器用に土を掘って出てきた虫を食べることも多いです。

 

ミズオオトカゲの食性で注目すべきところは、腐肉(腐った肉)を食べる「スカベンジャー」でもあることです。

普通の動物は腐った肉を食べたらお腹を壊してしまいます。しかし、ミズオオトカゲは特殊な免疫を持っていて、それが腐肉食を可能にしているそうです。

 

タイの大学ではその強い免疫を調べ、人間の病気の治療に役立てようという研究もあるそうです。

ハグ?相撲?レスリング?ミズオオトカゲの闘争

怖いものなしの見た目ですが、ミズオオトカゲは平和主義者です。人が近づけばすたこら逃げ、小鳥に追い立てられ、カラスにはからかわれます。

 

ミズオオトカゲ同士も喧嘩をしませんが、運よく闘争の様子を見かけると不謹慎にもワクワクしてしまいます。

ミズオオトカゲは闘争の際、後足二本で立ち上がります。尻尾で体を支え「ハグ」の体勢を取ります。

 

ハグしたあとのルールは「相撲」あるいは「レスリング」のような力比べです。相手を押し倒せば優位で、噛んだり引っかいたりすることはほぼありません。

巨体が立ち上がり「ハグ」するのが見ものなうえ、流血沙汰になることも滅多にないことから、スポーツ観戦のように見入ってしまう光景です。

繁殖期にみられる「ミズオオトカゲ団子」

普段はのんびり屋で孤独を愛するミズオオトカゲですが、繁殖期には人が変わったように活動的になります。

 

オスは見境なく他個体に近づき、相手がメスなら背中に乗ります。

邪魔がなければそのペアはめでたく交尾に至れるはずですが、ほとんどの場合こうしてできたペアの元にはすぐに他の個体が近寄り、交尾する隙を与えてくれません。

 

見ているとたいていは4頭、あるいは5頭以上の個体がぎゅうぎゅうに密集し、団子状にかたまります。

団子の中では、それぞれがなんとか繁殖のチャンスを得ようとあがいているのです。他個体と押し合いへし合いしているだけで、本来の目的を果たせる個体は少ないよう。

 

少々効率の悪い、ユーモラスな繁殖期のミズオオトカゲです。

ちょっぴり残念。タイでは不人気な動物

ミズオオトカゲは本場タイでは「不吉な動物」として忌み嫌われています

 

タイ語でミズオオトカゲのことを「ヒア」というのですが、この言葉自体が侮蔑的な意味を含む「悪い言葉」とされているそうです。

なぜそれほど嫌われているのか、日本人には本当のところは理解できません。

 

てらてらと油が浮いた用水路を泳ぐ姿や、配管からぬっと顔を出すところ、すさまじい臭いの腐肉を食べる様子などに、不吉さを感じるのかもしれません。

 

一方でそんな嫌われ者にも、エサを与える人たちがいるのもタイの日常です。

肉をどっさりと袋に詰めて、集まったミズオオトカゲたちすべてに行き渡るように投げている人を見ると、タイという国の寛容さを感じます。

魅力的だけどお迎えには熟考を

爬虫類好きにとって、ミズオオトカゲはいつかお迎えしてみたいペットの一種かもしれません。

飼育には、最低でも部屋をひと部屋明け渡す覚悟や、高額な飼育費用を維持できるかどうか熟考が必要です。

ミズオオトカゲに魅力を感じたら、野生の姿にも目を向けてみると、また違った視点で考えることができるかもしれません。