まとめ
  • 狂犬病は、人間にも感染する「致死率100%」の病気
  • 効果的な治療法は存在しない
  • 毎年の狂犬病ワクチンの接種は法律で義務づけられている


しかし一部の疾患では、感染や発症すること自体が生死に直結します。感染後に助かる見込みが限りなく低い病気の一つが、狂犬病です。今回は、狂犬病の感染経路や症状、狂犬病を防ぐためにできることを紹介します。

【 参考資料 】

厚生労働省「狂犬病に関するQ&Aについて」

厚生労働省「狂犬病」

厚生労働省「狂犬病について(ファクトシート)」

関西空港検疫所「疾患別解説 狂犬病」

厚生労働省「狂犬病(Rabies)」

◆この記事を監修してくださった獣医師プロフィール

ttm 医師

岩手大学で動物の病態診断学を学び、獣医師として7年の実績があり、動物園獣医師として活躍中。動物の病態に精通し、対応可能動物は多岐にわたる。

致死率100%の「狂犬病」について学ぼう

狂犬病は、以下の特徴を持つ病気です。

  • 発症後、致死率100%
  • 効果的な治療方法は存在しない
  • 人間にも感染する
  • 世界中で毎年何万人も死者を出している

この記事では、狂犬病の恐ろしさや歴史などを幅広く解説していきます。ぜひこの機会に、狂犬病の恐ろしさや対策方法について学んでいきましょう。

狂犬病とはどんな病気?

ここでは、狂犬病の感染経路や症状を紹介します。

日本人にとって狂犬病は身近な病気とはいえませんが、感染経路自体はごくありふれたルートとなっています。恐ろしい狂犬病の基本情報について学んでいきましょう。

狂犬病の感染経路

狂犬病は、狂犬病にかかった動物に噛まれた部位から、唾液に含まれるウイルスが侵入することによって感染します。

アジアでは犬(野犬を含む)による感染が主ですが、キツネ・コウモリ・アライグマなどさまざまな動物が狂犬病ウイルスを所持しています。

人間にも感染する狂犬病の症状

狂犬病は動物だけではなく、人間にも感染する病気です。

感染初期は発熱・頭痛・倦怠感・筋肉痛などの症状が、中期には興奮・錯乱・幻覚・不安状態が現れます。

また中期以降には狂犬病特有の水を怖がる症状が現れます。この理由は、過敏になった神経に水の刺激が加わると、反射的に強い痙攣が起こり飲水ができなくなるためです。後期には、昏睡からの呼吸停止で死に至ります。

治療法はない「致死率100%」の恐ろしい病気

21世紀の現代では、医学は飛躍的な進歩を遂げています。さまざまな難病の治療法が確立されるなかで、狂犬病は未だに効果的な治療法がない致死率100%の病気です。

一度でも感染したらほぼ確実に亡くなってしまう狂犬病ですが、感染から発症までの潜伏期間中に暴露後ワクチンを接種することで、発症を抑えられます。

しかし暴露後ワクチンは国によっても異なりますが、5回~6回以上接種する必要があります。

とはいえ暴露後ワクチンを接種しなければ、死は免れません。現在も世界では、毎年1,000万人以上の感染者が暴露後ワクチンを接種し続けているのです。

参考:長崎県壱岐市「狂犬病について、本当にご存知ですか?」

今も世界では、狂犬病による死亡者が相次いでいる

狂犬病は、毎年世界的に多くの感染者が発生する病気です。2017年にWHO(世界保健機関)が発表した情報によると、年間の狂犬病による推定死亡者は59,000人とのことです。

このうちアジア地域は35,000人、アフリカ地域は21,000人とのデータが発表されています。

また狂犬病ウイルスはすべての哺乳類が感染するため、南米をはじめとする一部地域では、家畜の狂犬病ウイルス感染による深刻な経済的被害が発生しています。

参考:NIID国立感染症研究所「狂犬病とは」

日本における狂犬病

恐ろしい病気である狂犬病ですが、幸運なことに日本での感染の可能性は少ないといえるでしょう。

しかし現在に至るまでは、多くの命の犠牲や苦難が存在していました。ここでは、日本における狂犬病の実態について紹介します。

日本は世界でも数少ない「狂犬病清浄国」

日本は、世界でも数少ない狂犬病清浄国の一つです。狂犬病清浄国はWHOによって認められた国であり、日本以外にもノルウェー・スウェーデン・英国・アイルランド・ニュージーランドなどの10数ヶ国があげられます。

見方を変えれば、世界196カ国のなかの大部分の国が、今なお狂犬病の不安や被害に苦しめられているといえます。現在日本では狂犬病を根絶できていますが、グローバル社会におけるモノやヒトの行き交いが増えるにつれて、国内にウイルスが侵入するリスクも上昇しているといえるでしょう。

参考:

国立感染症研究所感染情報センター「世界における狂犬病の発生状況および狂犬病侵入のリスク」

日本獣医師会「日本における狂犬病対策について」

現在に至るまで、多くの人や動物が亡くなった

日本における狂犬病の流行は、徳川綱吉が発令した「生類憐みの令」による野良犬の急増が始まりといわれています。

綱吉の死後、野良犬を収容していた犬小屋が廃止され、18世紀以降には狂犬病が爆発的に広まりました。

その後も感染は収まらず、1893年には外国から持ち込まれた犬からも感染が拡大。2月から5月までの3ヶ月間で、死者は10名を越えました。この間、市民は感染拡大を防止するために735頭以上の犬を撲殺せざるを得なかったようです。

1918年に、全国で初めて犬病ワクチン予防接種が開始されました。次いで1922年には、狂犬病を発病したすべての動物(家畜を含む)の殺処分が定められます。

ワクチン接種による効果を感じられたのも束の間、1923年に発生した関東大震災の混乱によりワクチン接種数が不安定に。翌年1924年には、東京での狂犬病発生件数が700件を記録してしまいました。

ワクチン接種と野良犬がの取り締まりがより強力に進められるようになったのは、1925年からです。1926年に入るとワクチンの成果が現れ、狂犬病感染者数は明らかに減少し始めました。

1933~1943年までの発生件数は、わずか1~21件に。1950年には狂犬病予防法が制定され、年1回のワクチン接種が法律で義務づけられました。そして1957年の最後の報告以降、国内で飼育されている犬の狂犬病感染報告は、現在に至るまでありません。

参考:

大阪府獣医師会「狂犬病対策」

北九州市「狂犬病について」

2020年に国内発症者が確認され話題に

狂犬病清浄国である日本ですが、1970年と2006年には、日本人の海外旅行者による発症が報告されています。さらに2020年には、国内では14年ぶりとなる狂犬病の発症が確認されています。

2020年の感染者である外国人男性は、入院翌日には会話困難になり、入院27日目に永眠しました。狂犬病を身近に感じざるを得ないニュースは各所で話題を呼び、狂犬病の恐ろしさやワクチンの重要性を再認識する出来事となりました。

参考:

農林水産省消費・安全局「狂犬病について」

八王子市「日本国内で14年ぶりに狂犬病患者(輸入感染症例)が発生しました」

NIID国立感染症研究所「日本国内で2020年に発生した狂犬病患者の報告」

狂犬病を予防するためにできること

ここでは、狂犬病を予防するために私たちができることを紹介します。日本が狂犬病を根絶できた理由は、野良犬対策とワクチン接種に他なりません。狂犬病清浄国であり続けるために、飼主一人ひとりの意識を高めていきましょう。

参考:

厚生労働省「狂犬病予防法」

熊本県「狂犬病のこと知っていますか?」

愛犬への狂犬病予防接種

犬の飼主には、狂犬病の侵入や蔓延を防ぐために、年に1回の狂犬病予防注射(ワクチン)の接種が義務づけられています

推奨されつつも実際には任意である混合ワクチンとは異なり、狂犬病予防接種は「狂犬病予防法」によって定められた法的義務です。

狂犬病予防接種は毎年4月1日から6月30日までの間に接種する動物病院で接種できる他、地域ごとに集合注射の会場が開かれます。

市区町村役場や愛護センターによる犬の登録

国が犬の頭数を把握するために、犬を飼育する際は生後90日から30日間以内に登録が必要です。

登録は生涯に一度で、市区町村の役所や保健所で行えます。登録時には証明となる「鑑札」が渡されるため、大切に持ち歩きましょう。

また狂犬病予防注射接種時に交付される「注射済票」も、鑑札とセットで所持する必要があります。

一般的には、犬の首輪に装着する飼主が多いとされています。鑑札や注射済票は、ペット関連施設を利用する際はほぼ必ず必要になるため、なくさないように管理しましょう。

参考:羽村市「犬に関する手続き【犬を飼ったら登録と狂犬病予防注射が必ず必要です!】」

渡航前には人間も狂犬病予防接種を受ける

日本以外のほとんどの国では、狂犬病に感染する可能性があります。

旅行や出張などの渡航前には、地域や期間によって事前に狂犬病ワクチンを接種するように心がけましょう。

ワクチン接種が必要かどうか迷ったら、トラベルクリニックなどで行先と目的を告げれば相談に応じてくれます。

とくに医療機関がない地域や動物が多い地域に長期間滞在する人や、動物に関連する調査や研究などで長期間滞在する人は、ワクチンの接種が強く推奨されます。

狂犬病ワクチンを接種していても、感染動物に咬まれた場合、それだけで感染を予防できるわけではありません。もしも感染動物に噛まれてしまったという場合は、必ず上でお伝えした暴露ワクチンを受けましょう。

恐ろしい狂犬病を防ぐために…愛犬には年1回のワクチン接種が必須と心得よう

今回は、狂犬病の症状や歴史、狂犬病を侵入させないためにできることなどを紹介しました。

私たち日本人にとって、狂犬病は幸運にも遠い存在です。島国である日本は外国からのウイルス侵入のリスクも低く、狂犬病の恐ろしさを認識する機会が少ないといえるでしょう。

しかし日本が狂犬病とほぼ無縁でいられるのは、過去の犠牲と現在に至るまでの努力があったからこそです。

狂犬病が恐ろしい病気だということはよくわかりました。だからこそ、日本国内であっても、犬に噛まれたというような場合には、飼主に狂犬病の予防接種を受けたかどうかの確認をしておくことをおすすめします。ワクチン証明を見せてもらえると安心です。

現在、ペットの飼育者にとって狂犬病ワクチンの接種は法的な義務となっています。過去の悲しい歴史を繰り返さないためにも、大切な家族である愛犬の命を守るためにも、今一度感染症に対する意識を高めていきましょう。

 

以下の記事では、子犬や子猫がかかりやすい病気などを解説しています。ぜひ参考にしてください。

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