まとめ

・動物とのふれあいで、動物由来感染症に感染する可能性がある

・狂「犬」病の感染源は実は犬だけはない

・感染後に発症しても、かぜなどに症状が似ていることも多く、発見が遅れがち

・症状があったらすぐに病院に相談しよう

海外旅行中、可愛らしい動物たちに出会ったら、ふれたくなる気持ちはよくわかります。しかし、むやみに動物にふれることには大きなリスクが伴うことを知っていますか?

日本に住んでいるとあまり馴染みがないかもしれませんが、野生動物はもちろん、飼育動物でさえ、予期せぬ感染症のリスクがあるのです。海外で動物にふれる際は、動物への配慮はもちろん、正しい知識で自身の安全を最優先にすることが不可欠です。

この記事では、動物とのふれあいに潜む感染症のリスクと、予防の知識について具体的な注意点と共に解説します。

◆執筆・監修:獣医師プロフィール

ttm 医師
岩手大学で動物の病態診断学を学び、獣医師として7年の実績があり、動物園獣医師として活躍中。動物の病態に精通し、対応可能動物は多岐にわたる。

なぜ、海外では動物を気軽にさわってはいけないの?

日本では、動物園や牧場などでの動物とのふれあい体験は一般的ですが、海外では人間への被害や動物虐待の観点から、動物とのふれあいが規制されている国も多くあります。

そのため、観光客が無知から動物をさわろうとすると、動物は防御本能から人を攻撃したりする危険性だけではなく、病気や寄生虫に感染するリスクがあることを知らない人も少なくないようです。

今回は、知らなかった!ではすまない、動物にさわるとどんな病気になるのかというリスクについて解説します。

旅先の道端で可愛い野良猫・野良犬をさわりたくなる気持ちはとてもわかるのですが、可愛い動物に出くわしても、遠くから眺めるにとどめるか、万が一ふれる機会があった場合は、正しい知識をもって感染リスクを避けるようにしましょう。

動物にさわると、どんな病気になるリスクがあるの?

日本は世界的にみても動物由来感染症(人獣共通感染症)が比較的少ない国です。島国であること、家畜衛生の徹底されていること、国全体の衛生環境が整っていることが一因と考えられています。

しかし動物に直接ふれることで、動物由来感染症に感染する可能性があることを知っていますか?細菌やウイルス、寄生虫などの病原体が人に移り、狂犬病・サルモネラ症・皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)などに感染する場合もあるのです。

そのため、海外渡航時は動物への不用意な接触は控え、感染リスクを減らすよう十分な注意と正しい知識を持ちましょう。

海外だからこその体験!動物と近距離でふれあえる体験も

動物との接触を控えることが感染リスクを抑える最も重要な方法ではあります。しかし、どうしても動物とふれあいたい時もありますよね!

例えば、オーストラリアではコアラを抱っこできる夢のような体験ツアーがあったり、タイでは直接トラにふれ、写真撮影ができたりします。このように海外では、日本では体験できないほど動物との近距離でふれる体験があふれており、それを目的に海外へ行く旅行者もいるほどです。

動物園などでの動物とのふれあいは、確かに貴重な経験です。しかし安全対策を怠ってはいけません。専門家の管理下で、決められたルールを守りながら、動物にふれることが大切です。

ここからは、無防備に動物に接して思わぬ怪我や病気のリスクにさらされないように動物にふれることに潜む危険性について正しい知識を知り、感染対策に活かしていきましょう。

犬だけではない「狂犬病」にも要注意

日本は島国のため、検疫を徹底することでよその国から知らない間に病原体を持った動物が入ってくることを防いでいます。

それに加えて狂犬病の予防ワクチンを法的に義務化することで、現在も国内での狂犬病の発生を抑えることに成功している狂犬病清浄国です。

そんな日本にいるとあまり意識することは少ないかもしれないですが、狂犬病は世界中で年間数万人が死亡する動物由来感染症で、 発症するとほぼ100%の致死率と言われています。

そして、狂「犬」病と言われますが、実は感染源は犬だけでなく、コウモリ・猫・アライグマなどすべての哺乳動物から感染する恐れがあるため、海外で動物とふれる機会を楽しむ際は注意が必要です。

万一、動物に噛まれたり、体液を浴びた場合は、すぐに医療機関に相談しましょう。発症する前に適切なワクチン接種を受けられれば発症を防ぐことが可能ですが、発症してしまうと確実な治療法はありません。

 

【獣医師監修】狂犬病ってどんな病気?予防接種って絶対必要? 【あわせて読む

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感染したサルは一生涯ウイルスを保有している!?Bウイルス感染症

サルと人の共通の感染症は、赤痢・マールブルグ・結核などたくさんありますが特にBウイルス感染症は致死的な感染症であるため、注意が必要です。

サルに咬まれたり、引っ掻かれたりすることで人へ感染し、神経症状を引き起こす感染症がBウイルス病です。原因ウイルスは、ニホンザルを含むアジア産のマカカ属サルが保有しているヘルペスウイルスと言われています。

海外では、野生のサルと人との距離が近いところも多く、歩いているだけでサルに荷物を奪われてしまう地域もあります。

現在、予防策となるワクチンはないためもし、咬まれたり引っ掻かれたりしたら素早く傷口を石鹸で洗浄しましょう。その後消毒薬に15分以上つけます。治療としては、抗ヘルペスウイルス剤の有効性が知られています。

齧歯類のおしっこから排泄される、レプトスピラ症

この病気の病原体は、ドブネズミなどをはじめ多くの野生動物、ウシ・ウマ・ブタなどの家畜やイヌ・ネコなどのペットの尿中に排泄され、水や湿った土壌に潜みます。川水などを飲むことでも感染しますが、特に注意が必要なのは、皮膚からも体内に侵入する点です。

世界的に、水たまりや冠水した道路、川遊びや水田での仕事などでの感染事例が多いです。日本をはじめ、世界各地で発生していますが、観光地としても人気のタイではよく聞く感染症の1つです。

人から人への感染は稀ですが、行楽地での水に関するラフティングやカヤックなどのレクリエーションにより感染する場合があるため、水中でのケガには注意してください。

海外では激しい雨により道路が冠水することもあります。ビーチサンダルなど素足で冠水した道路を歩くと感染する恐れがあるため、注意しましょう。

ラクダからの感染に注意!中東呼吸器症候群(MERS)

サウジアラビアやアラブ首長国連邦など中東地域で広く発生している重症呼吸器感染症です。発熱・咳嗽等から始まり、急速に肺炎の症状が見られます。

人から人への飛沫感染が確認されており、高齢者及び糖尿病・腎不全などの基礎疾患を持つ人は特に重症化傾向が見られます。

手洗いなど一般的な衛生対策に加えて、ヒトコブラクダなどの動物との接触をできる限り避けるだけではなく、未殺菌のラクダの乳や肉など加熱不十分な食品を避けるようにしましょう。

海外で動物とふれあった後にこんな症状が出たら要注意!

動物由来感染症は発症しても、かぜやインフルエンザ、ありふれた皮膚病などに症状が似ていることも多いため、発見が遅れがちになります。特に小さな子どもや高齢者は発病すると重症化しやすいので注意が必要です。

こんな症状があったらすぐに病院に相談しましょう

感染は早期発見・早期治療がとても大事です。以下のような症状があったら危険なサインととらえましょう。

  • 発熱
  • 頭痛
  • 吐き気
  • 下痢
  • 皮膚の発疹や傷口の腫れ
  • 目の充血

感染症の初期症状はさまざまです。動物との接触後に異常があれば、すぐに医師や専門家に相談しましょう。

必要な対策と潜伏期間とは?

動物との直接的な接触は避けるのが好ましいですが、もし動物にふれる機会があれば、手洗い・うがいをこまめに行いましょう。動物由来の体液で汚れた衣服は念入りに洗濯し、怪我に備えて予防接種を済ませるなど、予防対策を怠らないことが大切です。

予防接種が必要かどうか迷ったら、厚生労働省のサイトを確認したり、トラベルクリニックで相談すると良いでしょう。

また、動物とのふれあいは望んでいなくても、ホテルの部屋にコウモリが飛び込んでくるなど、予期せず動物との接触が生まれてしまう場合も考えられます。できるだけ自分自身で対処しようとせず、スタッフを呼びましょう。

小さな動物が弱ってうずくまっているような場合は、ひとりで対処できそうな気がするかもしれませんが、絶対にさわってはいけません。

どうしても自分で対処しなければならない場合は、手袋やマスクをしたうえで、ほうきなどを使って直接ふれないように工夫しましょう。もしも動物が出血していたり、糞をしていたら、念入りに掃除をしてアルコールなどでしっかり消毒することも大切です。

直接手でふれていないような場合にも、手洗い・うがいや洗濯など、できる予防策は忘れないようにしましょう。

帰国後も安心できない!感染症の潜伏期間とは?

海外滞在中は何事もなかったとしても、一部の感染症は2〜5週数の潜伏期間があると言われています。そのため、帰国後に発症するケースも十分にあり得ます。

体調の変化に常に気を配り、異変があれば速やかに医療機関を受診するようにしましょう。その際は訪れた国と時期・接触した可能性のある動物を必ず伝えてください。感染症の早期発見が重要です。旅行の思い出は悲しい思い出にしたくないですよね。

日本の常識も世界では非常識? 

国内と海外では、動物への意識や取り扱い方も大きく異なることがあります。日本では当たり前の常識が、海外では通用しないケースも少なくありません。

海外渡航時は現地の習慣を尊重し、その土地のルールに従うことが大切です。国ごとに状況が違うので、行き先の動物事情は事前に調べておきましょう。動物に無防備にふれれば、病気のリスクは高まります。動物への配慮と自身の安全対策の両立が求められるのです。

異文化にふれることは同時に、その違いを理解し対応することなのかもしれません。動物に対する十分な知識を持ち、対策をすることで、より楽しい海外旅行にしてください。

【参考】

海外へ渡航される皆様へ

動物由来感染症を知っていますか?

海外旅行では“動物からうつる感染症”にご注意を!

Bウイルス病について

中東呼吸器症候群(MERS)について