この記事は2024年6月時点の内容です。
- クラゲはイソギンチャクと同じ刺胞動物である
- クラゲの毒針を射出させないメカニズムは世界的な発見だった
- 発見を利用したクラゲ予防クリームは製品化され、現在も販売されている
愛媛県立長浜高校には、高校生が営む水族館があります。その水族館を運営するのが水族館部。この水族館部を目当てに、日本各地から生徒が集まってくるほど、魅力的な水族館部は、世界でも驚かれるような発見を生み出したことも。
今回はそんな水族館部で研究・開発されたクラゲ予防クリームについて、水族館部2年生橋本治斗(はしもとなおと)さんにお話をききました。
◆取材・監修:長浜高校水族館部
小学生のころから理科が好きで、魚を見るのが好きだったそう。将来は水族館で働きたいという思いを形にするべく、東京から愛媛の長浜高校に。小さい頃からライフセービングに参加しており、自分もクラゲに刺されることが多かったことから、クラゲ予防の研究に興味を持ったと話す。
目次
世界的発見を産んだ高校生の活動
長浜高校水族館部には、2014年の「第58回日本学生科学賞」で最高賞である内閣総理大臣賞を受賞し、その後も国際的なコンテストでも受賞を重ねた研究があります。
それがクラゲを予防するメカニズムの研究です。
現在はその研究結果を元に企業と提携し、『JELLYS GUARD』及び『JELLYS GUARD SUN SCREEN』としてクラゲ予防クリームが販売されています。
ここではクラゲを予防するメカニズムと、それを開発した水族館部について、橋本さんに聞きました。
長浜高等学校水族館部とは
愛媛県立長浜高等学校には、全国でも珍しい高校生が部活動で運営する水族館があります。その水族館を運営しているのが水族館部。
月に1回、第三土曜日に水族館が開館します。その日のために、水族館部のメンバーが準備を行い、水族館の運営に当たります。
長浜高校の水族館部は、日本全国からこの部に入るために生徒が集まる、日本国内でも珍しい水族館を運営する部活動です。
長浜高等学校水族館部は、
- イベント班
- 繁殖班
- 研究班
- デザイン班
4つの班に分かれており、研究班がこの研究を担ってきたのだそう。
自分も東京からここに来ました。先輩のやっていたクラゲの研究が面白くて、研究班に入りました。
最初はクラゲはただふわふわしているだけのよくわからない生き物だと思っていたのですが、研究してみると反応がちゃんとあることがわかり、もっと興味がわきましたね。
今はクラゲカッターの研究をしています。
最初はカクレクマノミとイソギンチャクの関係の研究からスタート
最初の疑問は、なぜカクレクマノミはイソギンチャクの中にいても、イソギンチャクに刺されないのか?というものだったのだそうです。
受賞した研究テーマは「ハタゴイソギンチャク刺胞射出の秘密」。
それはどんな研究だったのでしょうか。
イソギンチャクが刺胞(毒針)を射出するメカニズムの研究です。
刺胞を射出する・しないを分けるのは何か?を研究していました。
そこでわかったのが、マグネシウムイオンとカルシウムイオンの存在です。マグネシウムイオンとカルシウムイオンの濃度が上がると、イソギンチャクは刺胞を射出できなくなるのです。
クマノミはこのマグネシウムイオンとカルシウムイオンをまとっているんです。そうすることで、イソギンチャクはクマノミを刺さなくなります。
クラゲとイソギンチャクは同じ刺胞動物
イソギンチャクとクマノミから発見された、このマグネシウムイオンとカルシウムイオンの研究結果は、どのようにしてクラゲ予防クリームに使われているのでしょうか?
イソギンチャクとクラゲは同じ刺胞動物です。刺胞を射出するメカニズムも同じなんです。
ですから、マグネシウムイオンとカルシウムイオンをクリームに配合することで、クラゲの毒針を防ぐことができるわけです。
クラゲの毒針の予防とUVカット
クラゲの毒針を予防するだけでもすごい発見ですが、現在のUVカット機能を付加するには試行錯誤があったとか。
今あるものをより良くするために、どのような試行錯誤があったのでしょうか。
ユーザーの声を取り入れる
商品化された後に、Amazonのレビューに「日焼け止め効果がほしい」という意見があったのだそうです。
先輩がレビューを見て「日焼け止めいいね」と言い出して、機能を追加しようと研究が始まったのですが、クラゲの予防と日焼け止めの機能の両立が難しくて。
試行錯誤が続いたと聞いています。
クラゲ予防クリームを製品化!苦労したことは?
実際の製品として完成するまでにはどのような試行錯誤があったのでしょうか。
クラゲ予防の効果と、日焼け止めの効果のバランスですね。クラゲ予防の効果をあげようとすると日焼け止めの効果が弱くなってしまったり、日焼け止めの効果を追求するとクラゲ予防の効果が弱くなってしまったり。
今のバランスに行きつくまでの分量配分などに苦労したのだそうです。
高校生たちの“次”の挑戦
長高水族館部の研究は今もずっと続けられています。今までずっと継続されてきた研究の他にも、新しい研究のアイディアが続々と生まれています。
これからの水族館部についてお話を聞きました。
水族館部を運営するために
長浜高校は県立高校のため、製品の売り上げを分配してもらうことはできないため、研究費の一部を企業から支援してもらっているのだそうです。
研究発表で利用するプロジェクターであったり、新しい研究のための薬品や資材などの提供という形で、企業に支援してもらい、新しい研究を進めているとのことでした。
ここからまた新しい研究や商品が生み出されていくことでしょう。
現在はクラゲカッターを開発中
今、橋本さんはクラゲカッターを開発しているのだそうです。
元々はクラゲの大量発生によって困った漁師さんたちの間で使われ始めたものなのだそうで、その効果をブラッシュアップした製品を考えているのだとか。ここでは現在開発中のクラゲカッターについて、お話を聞きました。
漁師さんが漁に出ているときに網にクラゲが引っかかったりして、邪魔になることがよくあるそうなんです。今までは漁師さんのお手製のクラゲカッターで駆除していたようなのですが、それをもっとうまく作れないかなと。
クラゲの再生力はまだまだ未知数なんです。知らないこと、わからないことがまだまだ多いのが現状です。
今は仮説を立てていて、その結果を考えるのが楽しいです。論文を読んだり、検証するのが好きなので、とてもやりがいがあります。
クラゲの研究は終わらない!次の研究テーマは?
研究班ではそれぞれが自分の研究テーマを追求しているのだそうです。橋本さんのこれからやりたいことについてお話を聞いてみました。
春になって海が暖かくなってくると、クラゲが増えてきます。今はクラゲが増えるのを待っている状態です。
クラゲが増えてきたらデータを集めて、今まで考えていた仮説が正しいのかどうか、検証を重ねていきたいですね。
高校生の世界的な発見はこれからも続く!
長高水族館ではこれからも新しい研究が続けられていきます。新しい発想や新しい着眼点、高校生ならではの視点から始まる研究は、これからもたくさんの成果を産んでいくことでしょう。
今はまだこの世界にないものが、明日生まれるかもしれない。そんな期待を持たせてくれるお話でした。
今も数々の研究が続けられている長高水族館部・研究班。これからも長高水族館部の活動に注目です!
◆施設情報
長高水族館
所在地:愛媛県大洲市長浜甲576番地(長浜保健センター内)
入館料:無料
公開日:毎月第3土曜日のみ開館(事前予約制)
電話:0893-52-1251(愛媛県立長浜高等学校内 長高水族館)
営業時間:11:00~15:00
駐車場:あり(長浜港湾緑地50台)※高校内には駐車できません
以下の記事では、長浜高校水族館部の魅力についてお話しを伺いました!