人は毎日の歯磨きが欠かせません。動物も全ての動物ではありませんが、歯磨きが必要です。特に、犬・猫にとって歯磨きは命を守るケアのひとつでもあります。

今回は、犬・猫に歯磨きが必要な理由や、歯磨きをしないと罹ってしまう歯周病の恐ろしさをお伝えします。必要な歯磨きの頻度や方法も解説するので、是非参考にしてみてください。

◆監修・獣医師プロフィール

ttm 医師

岩手大学で動物の病態診断学を学び、獣医師として7年の実績があり、動物園獣医師として活躍中。動物の病態に精通し、対応可能動物は多岐にわたる。

 

動物に歯磨きが必要な理由とは?

人の場合、歯磨きは主に虫歯の予防のために行いますね。意外かもしれませんが、犬・猫を含め多くの動物は虫歯になりません。その代わり、人よりも容易に歯周病になってしまいます。動物の場合、歯磨きの大きな目的は、歯周病の予防なのです。

動物も人間も歯の構造は同じ?

動物の歯を見ると、私たちの歯とは随分違うように見えるかもしれません。しかし、歯の構造は動物も人も同じです。歯は歯そのものと、歯肉など歯を支える歯周組織から成り立ちます。

歯は、外側からエナメル質・象牙質(ぞうげしつ)・歯髄(しずい)の3層からできています。人の虫歯は、細菌が産生する酸によってエナメル質が溶けることで始まります。

エナメル質の下の象牙質は歯髄を覆います。歯髄には神経が通っているため、虫歯が歯髄まで達すると痛みを感じるのです。

歯周組織は、歯肉・歯槽骨(しそうこつ)・歯根膜(しこんまく)・セメント質から構成されます。歯肉は歯茎のことです。歯槽骨は、顎の骨の中で歯を支えている部分で、この歯槽骨と歯を結合しているのが歯根膜です。歯根膜にはセメント質という組織が結合し、衝撃を吸収する役割を持っています。

人の歯は、歯と歯肉の間の溝に歯垢が溜まりやすいですが、犬・猫も同様に、この部分に歯垢が溜まります

人の虫歯は動物にもうつる?

人から人へ、虫歯がうつるという話はよく聞きます。もしも、愛犬や愛猫に口周りを舐められたりした場合、人の虫歯は犬・猫にもうつるのでしょうか?

結論としては、うつりません。冒頭でも少しお伝えしましたが、犬・猫はそもそも虫歯にならないのです。正確には、犬ではごく稀になることがあるようですが、猫の虫歯はないとされています。

猫では以前、歯頚部吸収病巣という病気が虫歯と捉えられていましたが、今ではこの病気は見た目が虫歯に似ているだけで、全く違うものだと判明しています。

犬・猫が虫歯にならない理由は、歯のエナメル質を溶かす酸を発生する細菌が少ないからです。また、犬・猫の口内は、アルカリ性であるため、細菌が酸を産生しても、口内で中和されるからだとも考えられています。

もしも、なんらかの方法で人の口内細菌が犬・猫の口内に入り込んでも、犬・猫が虫歯になることはありません。

3歳以上の犬や猫の80%は歯周病に罹っている!?

虫歯にならないのなら、歯磨きは必要ないのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、恐ろしいのは歯周病です。
世界小動物獣医師会(WSAVA)の デンタルガイドラインによると『猫の70%、犬の80%が2歳までに歯周病にかかっている』とのことです。

また、アメリカ動物病院協会(AAHA)によると『ホームケアをしていない小型犬では9ヶ月齢から歯周病が始まる可能性がある』とされています。

犬・猫の歯周病では、歯周組織に溜まった膿が顔の組織を溶かし、顔に穴が開いてしまったり、歯槽骨が溶けて顎の骨自体が折れてしまうこともあります。

さらに、歯周病の病巣で増殖した細菌は、血管に入り込みます。血管に入った細菌は、血流に乗り、心臓や肝臓・腎臓などあらゆる臓器に辿り着き、それらの臓器が障害を起こすため、心不全や腎不全など命に関わる状態となることがあります。

歯周病を防ぐにはやっぱり必要な歯磨き

このように恐ろしい歯周病を防ぐためには、歯磨きが必須です。

歯周病の原因は、歯垢の中の細菌です。歯垢とは、歯の表面に唾液由来の糖タンパク質が付着し、その上にまた口内細菌が付着したものです。歯垢の構成成分の70~80%は細菌とされており、まさに細菌の塊なのです。

細菌が歯肉に付着すると、歯周病が始まります。また、歯垢をそのまま放置すると、歯垢は唾液中のカルシウムやリンを取り込んで硬い歯石となります。

口内がアルカリ性に傾いている犬・猫は、人よりも圧倒的に歯石のできるスピードが早いです。人ではおよそ30日と言われていますが、犬では3~5日、猫では7日程度です。歯石は表面がでこぼこしていて、ますます歯垢が付着しやすいため、歯石があると悪循環が発生します。

歯垢のうちは、歯磨きで掃除できますが、歯石になると動物病院での処置が必要になります。歯磨きで取れる歯垢の段階で取り除くことが大切なのです。

毎日歯磨きおもちゃを噛んで遊んでいても歯磨きが必要

残念ながら、歯磨きおもちゃで歯垢を完全に落とすことはできません。

なぜなら、おもちゃで遊ぶ時、犬・猫は歯をまんべんなく使っているわけではないのです。

また、歯垢は歯の表面だけでなく、おもちゃの届かない歯の裏側や、歯間などにも付着します。歯垢をしっかり落とす方法は、歯ブラシによる歯磨きしかないのです。

動物に必要な歯磨きの頻度・方法とは?

犬・猫の歯磨きをする時、どのような頻度・方法で行えば良いのでしょうか。先ほどお伝えした通り、犬・猫の歯垢はあっという間に歯石になるため毎日の歯磨きが必要です。

また、犬では口のサイズや形が犬種によって異なるため、愛犬に合ったケアが必要になります。ここでは歯磨き頻度と方法について、詳しくお伝えしますね。

犬・猫に必要な歯磨きの頻度・方法とは?

犬・猫に必要な歯磨きの頻度は1日1回です。方法は、犬・猫専用に販売されている市販の歯ブラシが一番お勧めです。

犬種によっても工夫が必要です。例えば短頭種は狭い顎に歯が密集しているため、歯間が非常に狭いです。また、上あごの骨がカーブして頬の方に大きく突き出ているため、上の歯が磨きにくくなっています。歯ブラシを縦にして1本ずつ磨き、ブラシが届きにくい部分は指磨きも併用するのが良いでしょう。

小型犬も歯が小さく密集しているため、磨きにくいですね。無理な磨き方をすると顎の骨を痛めてしまうこともあるので注意が必要です。小型犬専用に販売されている歯ブラシの中から、愛犬に最も合った歯ブラシ選びが重要です。

猫は全体的に歯磨きが苦手な傾向があります。子猫の頃から慣らしたり、ご褒美を利用するなどの練習が大切です。

犬も猫も、歯の表面だけでなく、人と同じく歯と歯肉の間に歯垢が溜まりやすいことを意識して磨きましょう。

その他の動物に必要な歯磨きの頻度・方法・注意点は?

一般的なペットである、ウサギ・ハムスター・モルモット・シマリス・チンチラなどは歯磨きは必要ありません。ただし、フェレットは、犬・猫と同様に歯周病になりやすいため、歯磨きが必要です。犬・猫同様の方法で歯磨きを行いましょう。

リスザルやロリスなどのサル類をペットにしている方もいらっしゃいます。サル類も歯磨きが必須です。サル類を得意とする動物病院で歯のケア方法を相談してみてください。

歯磨きで歯周病から愛犬・愛猫を守ろう!

今回の記事では、犬・猫の歯磨きの必要性や、歯周病の恐ろしさなどをお伝えしました。毎日の歯磨きは、愛犬・愛猫の健康のために欠かせません。ただし、歯磨きが愛犬・愛猫の大きなストレスになってしまうと、別の問題が出てきてしまいます。

歯ブラシなどのグッズを上手に選んだり、ご褒美を使って練習するなど、その子に合った歯磨き方法で愛犬・愛猫をしっかり歯周病から守りましょう。

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